拡大する写真・図版 下田昌克さん(奥)は小学校で、子どもたちと一緒に黒板いっぱいに絵を描いた=高知県土佐町の土佐町小学校、石川拓也さん撮影

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 四国の山あいにある人口約4千人の町が、気鋭のアーティストと組んで「絵本づくり」に取り組み始めた。町に移住した写真家がつないだ縁で、地元の子どもたちや猟師らが全面協力している。関係者は「町の物語」をカラフルな絵本に仕立てようと意気込んでいる。

 高知県土佐町。四国の中央部に広がる山間地に位置する、吉野川源流域の町だ。人口は約3900人で、高齢化率は4割超に達する。

 1月下旬、アーティストの下田昌克さん(51)が土佐町を訪れた。色鉛筆やクレヨンで描くカラフルな画風が特徴で、詩人の谷川俊太郎さんとの共著「恐竜がいた」などで知られる。絵本の下絵のイメージをつかむのが目的で、山師の仕事場や町立土佐町小学校などに足を運んだ。

 土佐町小学校の児童数は155人ほど。下田さんは一昨年の「アート展」で町を訪れており、子どもたちとは顔見知りだ。早速、校舎の中に導かれると、子どもたちと一緒になって、黒板いっぱいに恐竜の絵を描き出した。下田さんは「土佐町は子どもがめちゃくちゃ元気だ」と、絵本づくりに向けた活力を得た様子だった。

 山師の筒井順一郎さん(72)からは、焼き畑の話を聞いた。「畑に火を入れる前に、獣たちを逃がすため『今から火を入れるから、出るモンは出てけ』と歌ったそうです。こういうかっこいい先輩(高齢者)たちが健在で存在感がある土地って、いい所だなあって感じますね」

 その他にも、町の深部に暮らす猟師の高橋通世さん(64)から昔ながらの道具で営んできた「山の暮らし」を聞いたり、山深い高峯神社で守り人を務める筒井賀恒さん(85)から「伝説」を聞いたりと、町の「キーパーソン」たちが語る暮らしや歴史に触れて回った。

 そんな下田さんと土佐町の縁をつないだのは、町に住む写真家の石川拓也さん(44)だ。大手出版社の雑誌などで活躍していたが、2017年6月に総務省のプロジェクト「地域おこし協力隊」に参加して移住。町の広報ウェブマガジン「とさちょうものがたり」(https://tosacho.com/別ウインドウで開きます)を立ち上げ、編集長に就任した。

 「とさちょうものがたり」では、町民の肖像写真や町に伝わる手仕事を紹介するなどして土佐町を発信。17年秋には、かねて知人だった下田さんを招いて「アート展」も開催した。

 アート展直前に下田さんを土佐町に招いたところ、爽快なタッチで町の人たちの肖像画を次々と描き上げてくれた。下田さんの手でなじみの人たちが笑顔のポートレートに仕上がる躍動感に町中が沸き、町職員の一人は「絵本を作りたいですね」。それを聞いた石川さんが動き、町が下田さんに絵本づくりを依頼した。

 石川さんは「丁寧な手仕事や土地に根ざした暮らしなど、現代社会で失われつつある大事なものが、土佐町にはたくさん残っています。それらを色々な表現で発信してきたが、絵本もその一環。絵本だからこそ届けられるものがあると思う」と意気込む。

 下田さんは土佐町を訪れて得たイメージの断片を、東京に戻る飛行機の中で早速スケッチブックに描いたという。「絵本づくりはなかなか難しいものなので、まだ全然形になっていません。でも、子どもも大人もお年寄りも手にとって楽しめるものにしたいですね」。今後も土佐町に足を運び、数年内の完成を目指すという。(浜田奈美)