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 同世代の女の子たちと同じように、「恋ダンス」を私も踊った。新垣結衣さん演じる森山みくりと、星野源さん演じる津崎平匡(ひらまさ)の恋の行方に一喜一憂した。あれから2年余り。テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」にどっぷりハマっていた大学院生(当時)の私は、新聞記者になった。

 ドラマの原作となった同名の漫画作品の連載が、1月25日発売の「Kiss」3月号から再開された。みくりと平匡の「契約結婚」を軸に物語が進んだ前作は、結婚、恋愛、家事や働き方などにまつわる世間の常識に疑問を投げかける社会派ラブコメでもあった。

 再び「逃げ恥」に会える。その興奮とドキドキを胸にしまい、作者の海野つなみさんに会いに行った。(大木理恵子)

社会現象を巻き起こした「逃げ恥」。作者の海野つなみさんのインタビューを3回にわたってお届けします。

平匡さんにモデルはいるんですか?

 神戸の記者さん? 私の実家、西宮なんです。

 ――実は私も、生まれたのは西宮なんです

 そうなんですね。

 ――「逃げ恥」。いよいよ1月25日発売の「Kiss」(講談社)3月号から連載が再開されました

 はい。2017年に前作が完結したときは、「これで描ききった」と思っていました。若い頃、連載打ち切りにあったトラウマもあってか、とにかく話をまとめてしまおうとするところがあって。でも、トークセッションなどでいろんな方にお話を伺ううちに、まだ描いていないことがあるなと思うようになって。

 ――主人公の森山みくりと津崎平匡は、雇用関係に似た「契約結婚」をして同居生活を始めます。平匡さんは女性経験がないまま30代後半になった「プロ独身」の男性という設定でしたが、モデルはいますか?

 取材では独身男性の方に多くお会いしましたが、特定のモデルはいません。というのは、皆さん考え方や人生観が本当に千差万別で、一定の傾向が見えてくるということもなくて。だからもう、「この人(平匡)はこうなんですよ」でいいやと。あとは、自分自身の生活の中で得た直感や想像を盛り込んでいます。

 ――そうなんですね!

 例えば、みくりの匂いが残るふとんの中で平匡が一人ドギマギする場面があるんですが、あれは私自身がボディークリームを塗ってふとんに入った際に、ふと「こういう匂いに包まれたら、男性はたまらない気持ちになるのでは」と思ったのがヒントになっていて。

院卒のみくり、自分に重ねた記者

 ――ドタバタの日々の中で、平匡さんは戸惑いつつもみくりさんとの距離を少しずつ縮めてゆきます

 平匡の日々の描写には、意外にも多くの男性から「すごく気持ちわかる」との感想をもらいました。作者としてはそうした声にほっとする一方で、生活の中で感じていること、考えていることの根本の部分は男女そんなに違いがないのかな、なんて思いましたね。

 ――一方のみくりさん。大学院を出たあと派遣切りにあい、一つの「就職先」として契約結婚の道を選びます。私も大学院生時代、就職か進学か悩んだり、「働く」って何だろうと考えていて、みくりさんの境遇に我が身を映しながら読んだところがあります

 私自身は楽しいエンターテインメント、ラブコメにしようと思っていました。でも、連載が進むうち、みくりやその周辺にいる女性キャラクターを通じて、女性の社会進出や家事労働の問題など、女性が抱える「生きづらさ」が浮かび上がり、世の中の女性が「言いづらい」ことを発信する漫画――と受け取られるようになったんですね。それはそれでうれしいです。

 ――私もまさにそのような作品と思っていました

 少女漫画にちょいちょい社会ネタをとりこんでいくというのはウェブ漫画で一度実験的に試したことがあって、それが案外面白くて。「逃げ恥」でもその手法を応用したところ、物語の進展と相まって作品全体が社会性を帯びたと思います。テレビドラマでみくりを演じた新垣結衣さん、平匡を演じた星野源さんのおかげもあり、社会で大きな波になった感じです。

ひとりでに歩き出した百合

 ――みくりさん、平匡さん以外の登場人物も多彩で、魅力的です

 仕事バリバリで、気づけば独身のまま50代になっていたみくりの伯母(おば)・百合は作品の中でキャラクターがひとりでに動き出した好例だと感じます。最初は脇役的存在だったのが、読者の支持が思いのほか熱く、「みくりちゃんより注目してるから!」「あのイケメンをひざまずかせて!」といった声が殺到して。「幸せになってほしい」という読者の願望があったのかな。親子ほど年が離れ、結婚への関心も薄いイケメン・風見くんとの急接近も、読者の予想だにしない展開だったかも知れません。

 ――続編が楽しみです

 「逃げ恥」はいろんな人の生き方を認め、肯定する作品だと思っています。続編では、正式に夫婦になったみくりと平匡の生活がどう変化していくかを描くとともに、「男性にとっての生きづらさ」もテーマにしていきたいなと。男らしさ、男の役割。女性と同じように、そういうものを男性も背負わされている面があると思うから。

     ◇

 うみの・つなみ 1970年、神戸市生まれ。89年、「お月様にお願い」でデビュー。2012~17年、「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社)を連載。16年に新垣結衣、星野源の主演で同作はテレビドラマ化され、ブームを巻き起こした。