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 岐阜県高山市の介護老人保健施設で2017年夏、入所者5人が相次いで死傷した事件。元職員の男(33)がうち1人への傷害容疑で逮捕され、10日で1週間になる。閉ざされた空間で起きた連続死傷事件の全容を解明できるのか。岐阜県警の捜査は始まったばかりだ。

 現場となったのは高山市の「それいゆ」。17年7月末に門谷富雄さん(当時80)が食べ物をのどに詰まらせて死亡。6日後には石本きん子さん(同93)が自室で倒れているのを職員が見つけ、翌日に亡くなった。さらに6日後、中江幸子さん(同87)が胸の大けがで死亡。続いて女性(同93)の胸にあざが、別の女性(同91)にも肋骨(ろっこつ)が折れる大けがが見つかり、入院した。

 県警はわずか2週間ほどで、同じ施設で高齢者3人が相次いで亡くなったことで事件性を疑い始めた。同年8月下旬には、高山署に特別捜査本部を置き、捜査を本格化させた。約1年半後の今月3日、当時91歳の女性への傷害容疑で「それいゆ」元職員の小鳥(おどり)剛容疑者を逮捕した。

 今回の逮捕容疑となった被害女性の肋骨は複数折れ、胸や首元にも複数の圧迫痕や内出血が見つかった。県警は専門家の「介護中にできるものではない」という意見も踏まえ、容疑者を絞りこんでいった。

 ただ、捜査は容易ではなかった。被害者に異常が見つかったのは、施設2階の認知症専門棟で、4人部屋だがカーテンを閉めれば密室となる。入所者の多くは寝たきりで、事件を目撃した人もいなかった。けがをした入所者は、自分がけがをした状況を説明できなかったという。フロアに設置された監視カメラ8台のうち4台は作動していなかった。

 そうしたなか、県警は事件当時いた職員の勤務記録や入所者の介護記録をもとに、容疑者になり得る人物を絞り込んだ。その結果、女性が発見される約1時間前、おむつ交換で病室を訪れた小鳥容疑者だけが女性に危害を加えることができる立場にあった、と判断した模様だ。

「100%やっていない」

 小鳥容疑者は5人死傷が明るみに出た頃から、異常がみられた全ての日に出勤していた職員として名前が挙がっていた。報道陣の取材にも応じ、「100%やっていない」と事件への関与を一貫して否定してきた。接見した弁護士によると、傷害容疑で逮捕後も「おむつを替えただけで暴行はしていない」と否認しているという。

 捜査関係者によると、小鳥容疑者は事件発覚当初、県警の事情聴取に関与を否定。県警は自供は見込めないと判断し、5人死傷事件の全容解明に向け、客観的な証拠を集めるなどの地道な捜査をしてきた。

 障壁となってきたのは、亡くなった人のなかに司法解剖をしていないケースがあったことだった。

 1人目の男性は、県警が死亡直後の検視で「事件性がない」と判断。脳挫傷で亡くなった2人目の女性も搬送先の病院で事件性を疑われず、遺体はすぐに火葬された。捜査関係者は「司法解剖しているかどうかで捜査の難しさは全然違う」と漏らす。

 今回の逮捕容疑となった91歳女性と同様に、4人が死亡したり、けがをしたりした状況を示す直接的な証拠はない。県警は今回の傷害事件同様、4人がそれぞれけがを負ったとみられる時間帯を特定し、危害を加えうる人物がいたかどうかを慎重に調べている。