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 1992年10月、米国留学中に銃で撃たれ亡くなった服部剛(よし)丈(ひろ)さん(当時16)の母美恵子さん(71)=名古屋市在住=が絵本を出版した。絵は中学生が描き、大学生が絵本を米国に届ける。美恵子さんが絵本に込めた思いは、事件後に生まれた世代に引き継がれつつある。

 題名は「アリッサとヨシ」。昨年2月、米国フロリダ州の高校で17人が亡くなった銃乱射事件の犠牲者アリッサ・アルハデフさん(当時14)が、剛丈さん(ヨシ)と天国で出会う物語だ。

 悲しみにくれるアリッサをヨシがなぐさめる。「見えないものがみえるようになる力、人の心をゆり動かす力、人と人を結びつける力」……。天国で不思議な力を学び地上のために働くヨシや地上の友人の姿を見て、アリッサは友人や家族らを天国から支える決意をする――。

 「亡くなった人も生きている人もつながっている。命の大切さを書きました」と美恵子さんは話す。若い人にも物語を読んでもらうため、人権教育に力を入れる愛知県あま市の甚目寺中学校に昨秋、知人を通じて挿絵を依頼。1、2年生約400人が授業で物語を読み、絵を描いた。合作を含め15人の14作品が選ばれ、絵本に掲載された。

挿絵は中学生の手で

 早川ひなたさん(2年)は赤く塗った人の絵で天国で学ぶ不思議な力を表現した。物語を読み、「剛丈さんは、お母さんから大切に思われているんだなと思いました」と話す。

 アリッサが友人とサッカーをする絵を描いた山崎真由季(まゆき)さん(2年)は、最初に物語を読んだとき人命を奪う銃に恐怖を感じた。読み返すうち「銃の犠牲になった人を忘れてはいけない」と思うようになった。笑顔のアリッサを描いた忠津(ただつ)希(のぞみ)さん(2年)は物語が「命や人の死について考えるきっかけになった」。2人の絵は絵本にはないが、中学校のホームページに今夏、物語が公開される際、挿絵に使われる予定だ。

大学生が米国の遺族に面会

 完成した絵本はアリッサさんの母ロリさんに届けられる。届けるのは名古屋市立大2年の清水夏波(ななみ)さん(20)。「不思議な力は、服部さん夫妻が銃規制運動で大切にしていることなのでは」と清水さんは話す。

 美恵子さんと夫の政一さん(71)の運動を支援する平田雅己・名古屋市立大准教授(米政治外交史)の授業をきっかけに夫妻と交流するようになった。「普段は穏やかなのに、時折平和への強い思いを見せる」人柄に引き込まれたという。清水さんはフロリダでの事件が起こった2月14日(現地時間)に合わせ、前日にロリさんに会う予定だ。

 美恵子さんは「中学生たちは物語のメッセージをくみ取った絵を描いてくれた」と感謝する。絵本の収益は全額、銃規制運動への支援や、運動に取り組む「YOSHIの会」の活動に充てる。

 絵本は1冊600円(送料・振込手数料は購入者負担)。本文は日本語と英語が併記されている。注文はYOSHIの会のメールアドレス(yoshi-c@wmail.plala.or.jp)へ。(申知仁)

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〈服部剛丈さん銃撃事件〉1992年10月17日午後8時(現地時間)、米ルイジアナ州バトンルージュで、留学中の剛丈さんがハロウィーンのパーティー会場へ向かうつもりが、訪問先を間違えた。「パーティーに来ました」と近づく剛丈さんに、住人のロドニー・ピアーズ氏は銃を構えて「フリーズ」(止まれ)と警告。さらに歩み寄る剛丈さんを撃った。

 93年の刑事裁判では、陪審員団がピアーズ氏に無罪評決を下したが、94年の民事裁判では裁判所が「正当防衛とは認められない」としてピアーズ氏側に計65万3千ドル(当時約6500万円)の支払いを命じた。