「生活習慣病は自己責任、うやむやはダメ」経産官僚語る

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笹井継夫 浜田陽太郎
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 医療政策を所管している厚生労働省内には、「彼は国士だ」というと評価と「ペテン師と受け止められても仕方が無い」という見方が交錯しています。

 経済産業省の江崎禎英(えさき・よしひで)政策統括調整官(1989年入省)。その「プレゼン能力」を加藤勝信・厚労相(当時)に買われ、厚労省医政局のポジションも兼務する異色の官僚です。かつて「犬猿の仲」だった両省の橋渡し役を担う立場にあります。

 昨年10月25日、都内のシンポジウムで江崎氏の講演を聞きました。よく通る低音の声で、立て板に水のごとくしゃべり、途中で巧みに笑いもとる……。講演の最後に流すのは、「ダニー・ボーイ」の美しい旋律に乗せた60秒のYouTube動画「生涯現役社会の実現へ」。

 「一番大事なメッセージは、80歳になっても100歳になっても今が一番楽しい。そのような社会をつくったときに、結果的に医療費は増えるんですか?」

 最後のスライドには、日本医師会、厚労省、経産省のロゴマークが三角形に配され、江崎氏はこれを「奇跡のトライアングル」と呼びました。厚労省のポストを兼務し、医師会にも足しげく通って人間関係をつくってきた自負がにじみます。

 主張の核は、がん、糖尿病など「生活習慣病」の予防です。「食べ過ぎ(偏食)、運動不足、ストレスによる生活習慣病。これに対応できたとたんに答えは変わりますよ。この部分にアプローチできれば医療経済の常識をひっくり返すことができる」と、自信たっぷりに話しました。

 長生きすれば多くの人が慢性疾患にかかり、いずれ医療介護費は確実にかかる。予防はそのタイミングを先送りしているだけで、健康寿命は延びる可能性はあっても、医療費は削減できない――。そんな「医療経済学の常識」に真っ向から挑戦しているのです。

 著書「社会は変えられる 世界が憧れる日本へ」の中で江崎氏は、社会保障制度の状況は「太平洋戦争の末期に似ている」とし、「このままでは国民皆保険制度は遠からず沈没する」と予測。「部外者の立場」から方向性を論じています。

 「スーパー官僚」とネット上で紹介されたこともある江崎氏。記者(笹井、浜田)は経産省で2回にわたり話を聞きました。

医療費抑制できるのか?

記者 現状を示すイラストは、「ほけん丸」(公的医療保険)に次々と人が飛び乗り、満員のまま滝の下へと落下しそうです。もう一枚では、高齢者が岸辺で運動したり肉を食べたり。「ほけん丸」はスカスカになり、浮力を取り戻しています。

 この2枚のイラストをみると、予防に努めて健康になれば、「ほけん丸」の重量すなわち、現在40兆円超の医療費は「兆円単位」で減るように見えますが、そのように主張されているのですか。

江崎氏はなぜ、あえて「医療経済学の常識をひっくり返す」という挑戦的なもの言いをするのでしょうか。記者が迫ります。

江崎氏 現在、不摂生な生活を…

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