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 宮崎での第1次キャンプで、それは、毎日のように繰り返された。一塁、二塁、三塁と場所を変えて、9人の若手選手が集まる。重信、吉川尚、松原ら、年齢も実績も違う彼らの共通点は、足の速さを武器にしていること。できた輪の中心には決まって、新任の鈴木尚広・外野守備走塁コーチがいた。

 鈴木コーチは通算228盗塁。うち、代走でプロ野球記録の132盗塁を残した。初盗塁はプロ入り6年目の2002年4月。当時就任したばかりの原辰徳監督に走力の高さを見込まれ、足にかけるプロ野球人生が始まった。今回初めてコーチへ就くにあたり、3度目の指揮を執る原監督から「鈴木尚広2世が必要」と、若手の走塁技術向上を託された。

 盗塁の成否を決めるのは、脚力だけではない。視力、聴力、すべての感覚を研ぎ澄ませ、一瞬のスキを突く。「感性を養うために」と、選手に課す練習は独特。例えば、色の違う様々な手袋を背後から投げ、特定の色のときだけスタートを切る。素手、両手に手袋、片手だけ手袋で何人かが拍手し、素手の音のときにだけ、走る。

 現役時代は秘中の秘だった「走塁のスペシャリスト」として自分が会得したすべてを、いま、自らの後継者を育てるために、惜しげもなく伝えている。「幸せなことですよね。自分の言葉で、自分の指導で変わっていく様が見られるというのは。コーチ冥利(みょうり)に尽きます。どんどん走らせますよ」。最後の言葉に、力を込めた。(山下弘展)