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 技能実習生や留学生、観光名目などで来日した外国人が、失踪したり不法就労したりする例が後を絶ちません。なぜ行方をくらまし、どんな仕事や生活をしているのか。北海道で起きた事件から、実態と背景を探りました。また、英語、ベトナム語、中国語でもアンケートをしたところ、多くの声が寄せられました。

「いい仕事がある」

 北海道・函館地裁で1月25日、知内町のメガソーラー発電所建設現場で働くなどし、出入国管理及び難民認定法違反(不法残留など)に問われた被告、中国籍の楊華(ヤンファ)さん(37)に対する初公判がありました。楊さんは昨年10月、成田空港から短期ビザで入国。「定住者」「就業制限なし」などと記された偽造在留カードを所持し、不法に就労していたとされます。

 被告人質問などによると、山東省出身の楊さんは小学校中退後、農場で働いていました。知人から「いい仕事がある」とすすめられ、妻子のために「出稼ぎ」に来たそうです。ブローカーには3万元(約50万円)を払いました。月収の10倍にあたる額は、親戚から借りました。偽造在留カードは渡航後、「仕事のためのカード」と言われ、渡されたそうです。楊さんは英語も、日本語も読めません。

 北海道に来て2カ月後の11月下旬、楊さんと一緒に働いていた作業員1人が病死し、病院で偽造在留カードの所持が発覚。楊被告らは宿舎を一斉に逃げだし、翌日未明、11人が木古内駅などで逮捕されました。2カ月分の給与は未払いで、楊さんは「給料をもらったら、帰国するつもりだった」と訴えました。

 検察側は「入出国管理行政を害する悪質な行為」と指摘し、懲役2年を求刑。弁護人が「被告は詐欺の被害者」と情状を求めると、楊さんは目を潤ませ、鼻を赤くして天井をみつめました。日野進司裁判官から発言を求められると、「お願いがあります、刑を軽くしてください」と声をつまらせました。今月15日、楊さんら3人に執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。

 楊さんらは木古内町の民家に住んでいました。近くの女性(76)によると、中国人らは昨年8月ごろから住み始め、黒いワゴン車が朝晩10人ぐらいを送迎していました。「言葉は通じないけど、会えば会釈したり、野菜をお裾分けしてくれたりした」

 逮捕された中国人が出て行った後、家の中には10人以上の布団が敷かれ、キャリーバッグや鍋のご飯はそのままだったそうです。

 建設工事の元請けは「東芝プラントシステム」(横浜市)で、作業員は下請け業者(千葉県)が雇用。作業員の出身地や入国経路はばらばらで、中には観光クルーズ船で長崎港から入国した者もいました。道警は失踪した中国人の行方を追うとともに、業者が不法就労に関与していなかったか調べています。どこかで、逮捕前の楊被告のような生活を迫られている人がいるかもしれません。

 東芝プラントシステムは「捜査がどうなっているか分からないので、コメントは差し控えたい」としています。

 北海道ではこの半年前、倶知安(くっちゃん)町でも不法就労のベトナム人14人が見つかりました。3人が元留学生、11人が元技能実習生で、横浜市の人材派遣会社がSNSを通じて東京や大阪、愛知などから集め、別の派遣会社が「ヒルトンニセコビレッジ」に清掃員として派遣していました。

 発覚の端緒は、スーパーで起きた万引き事件を捜査中の警察官が、近くの住宅街の民家に大勢のベトナム人が住んでいるのを発見したことでした。家主は女性4人が住むと聞いていたそうです。

 記者が閲覧した公判記録からは、実習生や留学生だった彼らが経済的に困窮し、次第に失踪に追い詰められていく様子がうかがえます。ホアン・ヴァン・トウェンさん(24)は大学卒業後、父親のすすめで、2016年2月に来日し、大阪市内の機械組み立て会社で実習生として働き始めました。渡航費150万円は父親が銀行から借りました。しかし毎日10~12時間働いても、家賃などが差し引かれ給料は月5万~8万円。1カ月で8キロやせた時もあったそうです。SNSに「つらい」と書き込むと、別の実習生が北海道の仕事を紹介してくれ、17年10月からホテルで働き始めました。給料は歩合制で、一部屋あたり水回りの掃除370円、ベッドメイク230円。家賃や食費などを差し引いて月13万~15万円ほどになりましたが、「借金を返すために働いていた。捕まれば帰国できる」と思っていたそうです。

 元留学生のチャン・スアン・チュオンさん(23)は15年3月に入国し、都内の日本語学校に通っていました。初年度の授業料70万円は借金しました。しかし、日本での生活費は想像以上にかかり、弁当屋や宅配便のバイトをしても、2年目の学費が払えず、学校に行けなくなってしまいました。借金を返すためには、不法就労をするしかなかったそうです。

 この事件では、トウェンさんらにそれぞれ執行猶予付きの有罪判決、人材派遣会社の代表には入管難民法違反(不法就労助長)の罪で懲役1年6カ月、執行猶予3年、罰金200万円の判決が出ています。ヒルトンニセコビレッジの広報担当は「ホテルの直接雇用ではなく、業務提携先の派遣会社に委託していた。直接的にコメントする立場にはない」と話しています。

 全国で摘発された不法就労は5年前の14年の6702件から17年は9134件、18年上半期で4889件と増え続けています。政府は外国人労働者の総合的対応策の関連予算として、新年度予算の不法滞在者対策には、日本語教育の充実の約20倍にあたる157億円を盛り込んでいます。ベトナム人がみつかった民家の近くに住む町議の作井繁樹さん(50)は「彼らはむしろ犠牲者。新しい制度になれば、こんな『現代のタコ部屋』は無くなるのでしょうか」と疑問を投げかけます。(吉田美智子、平賀拓史)

受け入れ態勢 強力に規制を 外国人労働者の問題に詳しい 指宿昭一弁護士

 日本の外国人労働者受け入れの最大の問題は、「フロントドア」からでなく、留学生や技能実習生のような「サイドドア」「バックドア」から受け入れていたところです。改正入管法は、それを適正化したことは評価できますが、内容はあまりにも不十分です。

 まず、受け入れ枠の上限はなく、人権上の問題も多い技能実習生を廃止せずに、実習生が新しい在留資格に移行することを想定しています。中間団体や雇用主による中間搾取や、送り出し国のブローカー対策も不十分です。いまのままでは、外国人が多額の借金を背負って来日する状況は変わりません。「国際貢献」が有名無実化している実習生は、大幅縮小するか、廃止するべきです。

 本来なら、国が送り出し国と二国間協定を結んで、ハローワークのようなものを現地につくるのが理想ですが、それができないなら、強力な規制が求められます。実習生の場合、監理団体の管理費が低賃金の要因となっている面があります。外国人の来日に必要な経費は実費のみとし、登録支援機関への委託料には上限を設け、金額の開示を義務づけて透明性を確保しなければなりません。また、受け入れ企業が労働法規を順守しているか、健康保険に加入しているか、外国人の住環境は整っているかなどを点数化して、ブラック企業を閉め出す仕組みも必要でしょう。

 一方、外国人がブローカーにだまされないよう、日本は送り出し国と連携して、ブローカーを徹底して排除し、日本で働ける条件や在留資格について正確な情報を提供し、いつでも相談可能な窓口を設けるべきです。万一、外国人がだまされて入管法違反に陥った場合でも、自ら入管に申告すれば、救済する制度も検討に値します。(聞き手・吉田美智子)

希望つぶさないで

 アンケート「あなたは、日本に来てよかったですか?」の英語、ベトナム語、中国語版に寄せられた声の一部を紹介します。( )内は回答者の国籍、来日時の資格、在留年数。

 

●「私は日本では介護福祉士として働き、いろんな経験をしています。でも、日本に来たい人がいても、非常に条件が厳しいです」(インドネシア、EPAによる介護職、10年以内)

 

●「現在の生活に満足していますが、モスクや礼拝所、スーパーのハラル食品などがもっと必要です」(インドネシア、配偶者、10年以上)

 

●「仕事は楽しいし、日本人の同僚とも対話ができています。時間はかかりましたが、受け入れてもらったし、私と仕事をすることを楽しんでくれています。唯一、不快なのは、時折、日本人のスタッフから外国人のお客さんへの差別があることです。同僚としての私には決してないですが、外国人のお客さんにはあります。『あの人は、外国人だから、何も理解していない。簡単なサービスをしておけばいい。完全なサービス(おもてなし)をする必要は無い。日本人のお客さんに集中した方がいい』など」(インドネシア、留学生、1年以内)

 

●「日本は好きですが、日本人は嫌いです。たくさんの日本人に会いました。友達になった人もいれば、嫌いな人もいます。悪い日本人は外国人を嫌っています。日本にいる間、日本人は私たちフィリピン人に、おまえたちを必要としていないから、国に帰れと言っていました。直接、ののしる人もいました。悪い日本人は彼らが間違っていることを認めることをいやがります。職場では、悪い日本人は彼らの失敗を外国人に押しつけようとします。というのも、ただ単に、私たちが自己防衛できないからです。逆に、親切で礼儀正しい日本人とのたくさんの良い思い出もあります。私は、外国人に対して、非常に誠実で、気を配ってくれる日本人が好きです。私が難しい漢字を読めない時にはいつも、良い日本人が教えてくれました。私の監理団体は、バイクや自動車を買うことを禁止していたので、日本人の友人が乗せてくれました。また、私は日本人の恋人がいました。私たちは幸せな時を過ごしました。外国人を支援するのであれば、少なくとも、外国人の労働条件を3カ月に一度は調査する人を置くべきです。ストレスを感じているか、環境はどうか、生活はどうなのか。こういった質問が個人的になされなければなりません。言葉や重労働によって虐待されている時に、言うことができます。最後に、日本は非常に規律正しい国だと思います。もし、日本人が外国人により心を開きさえすれば、人生は仕事だけではなく、仕事で成果をあげながらも、幸せを見つけられると気づくでしょう。異なる文化を受け入れて、外国人をより歓迎する国になるためには、そうしさえすればいいのです。Doumo Arigatou Gozaimasu」(フィリピン、技能実習生、1年以内)

 

●「来日前は、日本で働きながら技術を学べることを夢に見ていました。いつもテレビやラジオで、日本はとても豊かでマナーが良く文明的な国だと聞いていました。実際の仕事や生活環境の悪さにとてもショックを受けています。毎日、朝7時半から夜10時まで働き、やっと帰宅したと思ったら、すぐにごはんを作って、翌日の食事の準備もしています。1年で3日しか休みがなく、ほとんど毎日仕事をしています。最悪なのは、私が日本人や他の外国人と話すことを社長が禁止していることです。寝室は狭く、雨漏りしています。浴室にはドアがなくとても寒いです。こんな最悪な環境にいて、日本に来たことをとても後悔しています」(ベトナム、技能実習生、1年以内)

 

●「私は今、レストランやホテルのサービス業に関連する仕事についています。ある程度のハラスメントは仕方なく受け止めますが、高学歴の上司や人事採用担当者でさえハラスメント行為があります。ベトナムでは有名な大学を卒業し、仕事では悪くない評価がありました。現実にはとても失望させられました。日本より貧しい国から来たかもしれませんが、私たちなりに努力してきました。日本に来てたくさんの苦労に耐えながら将来のために仕事をしていることが、その証明です。どうか私たちを下に見ないでください。私たちの日本に対する希望や愛情をつぶさないでください」(ベトナム、専門職、1年以内)

 

●「日本に来るために払わなければならない費用を、もっと具体的に決めてほしいです。そして、違反すれば処罰されるような制度を設けてほしいです。大多数の人は、1年は働かないとその費用を返すことはできません。もしこのような問題が解決できれば、ベトナム人が日本で起こす事件は著しく減っていくでしょう」(ベトナム、専門職、1年以内)

 

●「日本に来るためにかかる費用(学費、面接、手続きなど)はとても高いです。それだけ負担しても、ほとんどが最低賃金並みの低い給与基準で、とても困難できつい仕事にしかつけず、しかも、日本人の雇い主によって強制的に働かされるだけです。技術者の資格で日本に来た人が後で転職したり、実習生の資格で来た人が逃げたりすることが多いのは、そのようなことが原因だと思います」(ベトナム、専門職、1年以内)

 

●「会社と組合は職業分野をだましました。契約では『溶接』になっていますが、実際にはごみの分別をさせられています」(ベトナム人、技能実習生、1年以内)

●「不公平なことがあります。例えば、日本人の友人と道を歩いていると、警察が呼び止め、在留許可証を確認します。友人が身分証明書の提示を求められたことはありません。警官は私のものを確認しただけで、立ち去ります。アパートを見つけるのも非常に難しいです。場所によっては、外国人には(賃貸を)許可していません。ほかにも、市役所で公的な文書をとる時にもあります。日本人の職員は私が彼らの求める外国の公的な書類と情報を提供しないと、非常に失礼な態度をとります。私は提供しません。なぜなら、外国にはそういった書類はないからです。外国では同様の公的な書類を取得できません。(外国人には)より支援の必要があるし、日本の政府機関の職員にはもっと外国の制度や書類に関する教育が必要だと感じています」(その他、専門職、5年以内)

 

●「子どものための学校のような社会福祉サービスや施設の向上。地域住民と新住民に知りあう機会を与え、違うコミュニティーの架け橋を築く文化交流のイベントのために、自治体と協働することです」(インドネシア、観光、5年以内)

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 アンケート「外国の人と、どう共生?」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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