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NPO法人「Fine」理事長 松本亜樹子さん(54)

 「お子さんは?」。天気のような何げない話。ざわつく心にふたをして、平静を装う。心の中では「簡単に言わないで」と叫んでいる。こんな人が、あなたの近くにいるかもしれない。

 不妊の検査や治療をしたことがあるカップルは「5・5組に1組」と言われる。体外受精などの高度な不妊治療で生まれた赤ちゃんは年間5万人を超え、全体の18人に1人。妊活中の人にとって不妊治療は選択肢の一つだが、数字とは裏腹に、こっそり治療を受けている人も少なくない。

 自身も約10年間の治療を経験した。「結婚したら子どもは3人」と思い描いていた。学生時代からモデルなどの仕事を続け、30歳で克茂さんと結婚。「いつかは子どもができる」と信じて治療を続けたが、授からなかった。今も「治療をやめた」とは言えず、「お休み中」で心に折り合いをつけた。

 不妊治療は、からだ、こころ、お金、時間の負担が重なる「四重苦」。同じ立場の仲間を見つけられたのは、ネットの掲示板だった。注射が痛い、治療費が高い、職場に言えない――。共感したり、情報を得たり。掲示板を毎日見ていた。

 ある日、当事者同士で悩みを書いているだけでは社会に伝わらず、人が入れ替わっても同じ悩みが繰り返されることに気づいた。「一人の声は小さくても、10人、100人、千人の声が集まれば、聞き届けてくれる人がいるかもしれない」。友人と共著を出したのをきっかけに、2004年、不妊で悩む人たちの自助グループ「Fine(ファイン)」を仲間と立ち上げた。

 治療に関するアンケートや署名を集め、国に要望書を出してきた。15年たち、少しずつ社会が変わってきたと感じる。国が治療費の支援や調査に乗り出し、治療中の社員を支える制度をつくる企業も。「男性不妊」も知られるようになってきた。

 大切にしてきたのは、当事者の精神的なケア。05年に治療の経験者が仲間を支える「ピア・カウンセラー養成講座」を始め、約120人の認定者が生まれた。男性も2人いる。「悩んでいるのは、あなただけじゃない」と呼びかけ、おしゃべり会などを各地で開く。「初めて不妊のことを話せた」と涙をこぼした人が、「楽しかった」と笑顔で帰っていく。会員は約2200人。スタッフは皆が不妊を経験し、仕事や子育てをしながら活動を支える。

 不妊を特別視するのではなく、普通に話せる社会になってほしい。そのために、「メッセンジャー」の一人として、当事者の声を今日も届ける。「私たちのように悩む人が、一人でも減ってほしいから」

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