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 がんとの共生社会の実現を考える「ネクストリボン2019」(朝日新聞社、日本対がん協会主催)が、「世界対がんデー」の4日、東京都内で開かれた。シンポジウムとトークイベントがあり、計約1200人が参加した。シンポでは、がんの治療と仕事の両立支援について、専門家やがん体験者、企業の代表が講演。パネルディスカッションで議論を深めた。

基調講演 闘病、多様性の一つとして 国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援部長・高橋都さん

 がん患者の就労に関する実態調査では、診断時に働いていた人の3分の1から4分の1が離職している。やめる時期で多いのが診断直後から治療が始まるまで。「びっくり離職」とも言われ約4割を占める。もう一つは復職した後。頑張って復職したが、様々なハードルがあり、続かなかったという場合だ。

 働く場面では、多くのプレーヤーが本人や家族をとりまいている。会社では経営者、人事労務、職場の上司や同僚。一定規模の会社であれば、産業医や看護職もいる。医療機関にも主治医、看護師、相談支援スタッフもいる。地域資源や行政も重要だ。治療と仕事の両立支援を考えるときには、こうした人たちが連携する必要がある。

 乗り越えるべき壁は三つ。「気づく」「取り組む」「続ける」だと思う。まず、がんと診断されても働けるという気づき。本人と職場のコミュニケーションのためには、普段からの信頼関係が何より重要であるという気づき。さらに、働きやすい職場づくりは社員の士気や会社の評判にもつながるという気づきだ。

 「取り組む」には、経営トップから支援への明確なメッセージがあると効果的だ。人事労務や職場の関係者はがんと診断された本人の心情に寄り添いつつ、「慌てず、決めつけず、本人の意向をしっかり聞く」ことが大切。支援制度や環境づくりはそこからだと思う。

 「続ける」は、他社が持つノウハウを情報交換したり、経験値を蓄積したりすること。がん体験を持つ社員の声を仕組みづくりに生かす会社も多い。

 病気はダイバーシティー(多様性)の一つ。命を直視する体験は人間に変化をもたらす。がん体験が社会人としての強みになることもある。多様な社員がいる会社は強いはずだ。

【がんと就労に関する主な動き】

2012年 第2期がん対策推進基本計画(「がん患者の就労を含めた社会的な問題」を初めて明記)

   13年 がん患者の就労に関する総合支援事業

   16年 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン

      改正がん対策基本法成立(事業主の責務として、がん患者の雇用継続への配慮やがん対策への協力が努力義務に)

   17年 第3期がん対策推進基本計画(「就労を含めた社会的な問題・サバイバーシップ支援」を明記)

上司の応援・柔軟な勤務で安心感 がんの治療を受けながら働く電通ビジネスプロデュース局社員、御園生(みそのう)泰明さん

 2015年に肺腺がんと診断された。死ぬかもしれない、家族を守らないといけない、お金も必要だと悩んだ。自分の経験から、治療と仕事を両立できているポイントを四つあげる。

 一つ目は上司が寄り添ってくれ、周囲が応援してくれる空気をつくってくれたこと。安心感が得られたことが大きい。

 上司に相談すると、「よし、任せろ」と言って、僕の写真に「FIGHT TOGETHER」という文言をつけたステッカーを作ってくれた。上司が自分のパソコンに貼る。その前に座った人が「どうしたの」と聞く。上司が「御園生ががんになったんだ。一緒に応援してやってくれないか」とステッカーを渡す。同僚や取引先が僕の病気を知って、応援してくれるようになった。黙って抱え込む必要がなくなり、治療に専念できた。

 二つ目は医療が発展し、通院しながら治療ができること。三つ目はフレックスタイムやメール、スカイプなどの会社の制度やビジネスツールを使って柔軟な働き方ができていることだ。

 とはいえ落ち込むことがある。そんな時、湘南ベルマーレフットサルクラブの久光重貴選手の写真を見つけた。彼も肺腺がんで、日本一を目指して、治療を受けながら練習をしている。その写真を見た時にすごく気持ちが前向きになった。

 1枚の写真によって「がん=死」という呪縛から解放された。写真の力で元気なサバイバーの存在を伝えるボランティア活動をしたいと上司に相談すると、「よし、分かった」とすぐに調整してくれた。化粧品会社も協力してくれ、プロのスタッフがメイクやヘアセットをし、撮影やポスター作りもしてくれた。

 プライベートでこの活動をすることにも、会社が理解を示してくれて精神状態がさらに安定し、仕事も頑張れるようになった。これが両立できている四つ目の理由だ。

     ◇

 1977年生まれ。2005年、電通に入社。ボランティア活動「LAVENDER RING」の発起人。

復職まで、きめ細かく伴走 JAL健康経営責任者、藤田直志・副社長

 グループ社員は約3万3千人いて、男女比は半々。深夜も含むシフト勤務者が8割。2012年から健康経営に重点的に取り組んでいる。

 がんは重点項目の一つだ。全社員に配る冊子で各種がんの特徴や検査数値の見方などを紹介し、予防と早期発見を促している。たばこの問題や、女性のホルモンと乳がん、子宮がんの知識についても男女ともに学ぶ機会をつくった。男性よりも高い割合で罹患(りかん)している女性に特化した冊子も作り、自宅に郵送した。家族も読んで欲しいので。

 治療と就労の両立のために、時間単位の年休取得なども導入し、テレワークも進め、使い勝手の良い制度導入を進めている。

 病気から復職までに、個人にきめ細かく伴走することを心がけている。8割勤務や残業、出張の制限も決める。例えば客室乗務員なら、月単位で乗務時間や路線をコントロールし、最長6カ月で通常勤務に戻していく。がんの罹患者は過去5年間で約200人。元気に職場に戻り、両立が困難で離職した社員はゼロだ。

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 1956年生まれ。81年入社。2016年から代表取締役副社長に就任。17年度から健康経営の責任者に就任している。

検診・禁煙、トップから発信 テルモ、竹田敬治・人事部長

 医療機器メーカーとして歩み、健康経営について2014年ごろから、社長自らメッセージを発信してきた。

 大切にしていることの一つは、2次検診100%をめざしていること。産業保健師、人事部から、所属長に受診するよう強く言ってもらうようにした。営業拠点の評価に検診項目も盛り込み、受診率は6割から8割超まであがった。

 がんの原因の一つとして指摘されている禁煙も指導している。敷地内禁煙などの取り組みで、喫煙率は13年34%だったが17年は25%まで下がった。14年に社員の子ども向けに健康セミナーも開いた。40年間ほど喫煙していた当時の専務が、孫からの手紙で禁煙して、その後は全国行脚して禁煙を呼びかけてくれた。

 17年にがん就労支援制度を導入し、個別対応から制度として構えた。失効有休を復活させて小刻みな取得を可能にしたり、無給休暇を導入したりしている。女性向けセミナーや検診補助で受診率向上も図っている。他社とも情報共有して、更に整えていきたい。

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 1962年生まれ。86年に入社。2017年から現職。子会社も含めて健康経営を進める組織のリーダーも務めている。

傷病手当、再発時も使えたら 櫻井謙二商店・櫻井公恵社長

 私の会社は食料品の卸売業で、社員数は45人。保険者は協会けんぽで産業医はいない。病気も含め社員に何事かあると、いつも「大丈夫。一緒に考えよう」と言う。魔法の言葉だ。前例を当てはめず、個々の希望を聞き、寄り添うことを大事にしている。

 復職は、1日2時間から始めて、3年かけて戻る人もいれば、1カ月で戻った人もいる。欠員のカバーが大事で、なるべく多くの仲間が関わり、柔軟にルールを変えて対応している。元気な社員との公平性から、復職時に時間単位の年次有給休暇などを活用してもらうなどしている。

 「傷病手当金」には期限があり、数年後の再発時には使えない。分割取得できるようにして欲しい。自営の人も含め、すべての働き手にこうしたサポートが行き届いて欲しい。

 治療して戻ってきた社員の姿を見て、「何かあっても大丈夫。また働ける」と思う安心感が社内に広がっている。全力でサポートする、ではなく、サポートしあう。そうありたい。

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 1967年生まれ。生家が営む食料品卸売業に入社。4代目。希少がんを患った夫は亡くなる2週間前まで働いた。