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 「中国製の地下鉄車両は我々をスパイできる? 多くの専門家はいう。イエスだ」。1月8日付米紙ワシントン・ポストの1面に、こんな見出しが躍った。

 米国の権力が集まる首都ワシントンの地下鉄で、ホワイトハウス当局者の会話や行動が中国に監視されたら――。こんな映画のシーンのような話が、米国で議会や専門家らを巻き込んでまじめに議論されている。

 舞台は、鉄道車両をめぐる入札だ。地下鉄を運行する首都圏交通局(WMATA)は2024年、最新鋭車両を導入する。受注が有力視されたのは、中国国有の鉄道車両メーカー、中国中車(CRRC)だった。

 CRRCは中国の軍事産業との関係が取りざたされ、国策で地球半周以上の距離を整備した高速鉄道の需要を背景に、世界最大手に成長。ボストン、シカゴなどで相次いで地下鉄車両の受注に成功していた。ボストンでの応札額はライバルと比べて2割以上も安かった。

 最新の鉄道車両は、ただの「ハコ」ではなく、運行の効率化や安全対策のため多くのセンサーを搭載。通信網を介してデータをやりとりするため、サイバー攻撃のリスクも高い。

 業界団体が声を上げた。「国防総省で機密を扱う人も乗る地下鉄に監視装置が埋め込まれるのではないか」(鉄道安全同盟のエリック・オルソン副会長)。顔認証カメラを張りめぐらせる中国の監視社会が、米国にも持ち込まれるのではという警戒だった。

 米国では旅客車両を造るメーカーは淘汰(とうた)され、もうない。かろうじて貨物車両を製造しているのみ。中国など価格競争力のある海外メーカーに頼るほかない。CRRCに国内市場がほぼ独占された豪州などの二の舞いになる、との警戒感は強い。

 米連邦議員やサイバー分野の専門家も懸念の声を上げた。WMATA理事会に連邦政府を代表して入るデビッド・ホーナー氏はいう。「専門家の意見を踏まえ、契約には慎重であるべきだ」。CRRCの米国拠点は「当社は米国で競争している他のメーカーと何ら変わらない」と反論するが、騒ぎに押される形でWMATAはサイバー面の安全要件を見直し、入札を4月まで延期した。

「中国製造2025」を警戒

 安全保障のリスクを理由にした中国排除は、通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)にとどまらない。背景には、中国が国力の源である製造力を高めている現実とともに、中国の製造業を世界の先頭に立たせようとする習近平(シーチンピン)指導部の方針「中国製造2025」を警戒し、米国がそれを抑え込もうという動きがある。

 中国の国内総生産(GDP)は米国の7割に満たないが、製造業のGDPは2008年のリーマン・ショックを機に米国を抜いた。米国がITや金融などに産業の重点を移す一方で、世界規模で最適なサプライチェーン(部品供給網)をつくり、製造拠点を中国などに移した結果だった。

 昨年10月、トランプ政権が「米国の製造業と防衛産業における基盤とサプライチェーンの評価と強化」と題する報告書を発表した。中国の知的財産侵害や政府の手厚い補助金による競争を不公正だと非難しつつ、軍需産業でさえも外国の部品がないと成り立たない米国の脆弱(ぜいじゃく)性を警告。「国内の部品供給力を失うことは、国防や民間の需要に不可欠な製造力を失うことになる」と警鐘を鳴らした。

 米中通商紛争の始まりは昨年3月、鉄鋼・アルミ製品への制裁関税の発動だった。7月、米鉄鋼大手USスチールの工場をトランプ大統領が訪れると、デビッド・ブリット最高経営責任者は「こんな指導者を持てて幸運だった」と手放しで称賛した。関税は鉄鋼価格を押し上げ、同社の18年の純利益は約3倍に伸びた。

 米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が鉄鋼業界のロビイストだったように、米政権は鉄鋼業と関係が深い。「中国から製造業を取り戻せ」というかけ声は、鉄鋼業界に加え、トランプ氏の支持基盤の「ラストベルト」(さび付いた製造業地帯)の有権者や、労組が支持する野党・民主党にも受けがいい。

 USTRの代表候補だった米鉄鋼大手ニューコアのダン・ディミッコ名誉会長はこう指摘する。「自衛の観点から、必要なものは何でも製造できる能力を持っておかなければならない」

 トランプ政権で、対中強硬策を推し進めるのはナバロ大統領補佐官だ。中国はサイバー攻撃や知的財産の侵害など不当な手法で産業力を強めているとの考えがあり、「中国製造2025」を敵視する。知的財産侵害などを理由とした米国による対中関税の対象はハイテク品から日用品まで、中国の対米輸出全体の半分まで広がった。

 ナバロ氏は、1月末の電話会見でこう断言した。

アメリカの産業構造が持つ弱点。そこを攻める中国。貿易紛争の底流を、米中で取材しました。

 「米国が強い鉄鋼業を持てば、…

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