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 整形外科手術の多くは痛みを取り除いたり、運動機能を改善させたりするための手術です。

 2017年の1年間に弘前大学で行った整形外科手術件数の総数は905件でした。そのうち、チタンなどの金属で作られる人工物を使用するインプラント手術は、人工膝(ひざ)関節置換術は43件、人工股関節置換術は43件、脊椎(せきつい)インストルメンテーション手術は54件ありました。脊椎インストルメンテーション手術は背骨の骨折の治療や、神経の通り道を拡大させる目的でスクリューや人工骨を用いて固定する手術です。

 整形外科手術に伴う合併症の一つに、手術した場所で起きる「手術部位感染」(surgical site infection= SSI)があります。SSIは次の①~③のすべてを満たした場合と定義されています。

 ①手術後、感染が30日以内に発生する。

 ②感染が切開創の皮膚と皮下組織に限局している。

 ③以下の少なくとも一つが存在する。

 ・切開創からうみが出る

 ・切開創から清潔に採取した液体または組織の培養から病原体が分離される

 ・医師がうみを出すために切開した創の細菌培養が陽性、あるいは培養結果が出ていないが感染の症状がある

 ・医師が切開創SSIと診断

 日本整形外科学会などによる骨・関節術後感染予防ガイドライン2015によると、SSIの原因菌は、脊椎インストルメンテーション手術後感染92例の中ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が34例(37%)、表皮ブドウ球菌が16例(17%)、黄色ブドウ球菌が11例(12%)の順に多かったと報告されています。また、人工関節置換術後感染例134例の中ではMRSAが56例(42%)、黄色ブドウ球菌が23例(17%)、表皮ブドウ球菌が15例(11%)の順に多かったと報告されています。

 インプラントを用いた手術でSSIが起こった場合、インプラント周囲には抗菌薬が届きません。このため抗菌薬の投与だけでは細菌感染が沈静化しないことがあります。MRSAなど抗菌薬が効きにくい細菌によるSSIでは、インプラントの抜去や複数回の再手術が必要になることもあります。

 日本整形外科学会などによる骨・関節術後感染予防ガイドライン2015によると、整形外科手術におけるSSI発生率は、初回人工関節置換術で0・2~3・8%、人工関節が壊れてしまった場合に行われる人工関節再置換術で0・5~17・3%、脊椎手術で0・6~11・9%と報告されています。

 患者に危険因子がある場合にはSSIの発生率は高まります。危険因子は、糖尿病や低栄養、喫煙などです。

 糖尿病について日本整形外科学会学術研究プロジェクト調査による報告があります。それによると、糖尿病である患者が人工関節置換術を受けた場合の感染率は2・7%、同じく脊椎インストルメンテーション手術を受けた場合の感染率は7・3%と、前述のSSI発生率と比べ有意に高かったです。

 また、栄養状態の指標となる総たんぱく量、アルブミン量は、感染群が非感染群に比べ有意に低値でした。喫煙は人工関節手術や脊椎インストルメンテーションなどインプラントを用いる整形外科手術においてSSIの危険因子です。フランスの研究者の報告によると、感染率は非喫煙で1・7%、喫煙で3・7%と、喫煙者のほうが高くなっています。

 術後感染予防のために、糖尿病患者では血糖値のコントロールが重要です。術後の血糖値が200mg/dL以下を目標にコントロールすることでSSIのリスクを減少させることができます。糖尿病内科専門医に治療を依頼することもあります。これまで糖尿病を指摘されたことがない人でも、高齢者など血糖の処理能力が低下している人では手術後に血糖値が高くなる場合があります。手術後間もない時期の間食は血糖値のコントロールを悪化させる可能性があります。喫煙している人は手術前に禁煙することが重要です。手術部位感染を防ぐためには、血糖値のコントロールや禁煙など手術を受ける側の皆さんの協力が必要になります。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座助教 工藤整)