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 外国人労働者の受け入れ・共生に向けた対応策として、国は昨年末、126項目の施策を打ち出しました。その目玉の一つが、全国約100カ所に設置される「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮称)」です。日本語教育の充実も大きな柱となっています。外国人との共生に先行して取り組む韓国とドイツを取材しました。

言葉や文化 無償受講も ドイツ 移民受け入れに苦い過去

 人口のおよそ2割が移民やその子孫からなるドイツ。2005年から、定住を希望する外国人に、ドイツ語や文化を学ぶ「統合コース」の受講を法律で定めています。

 費用は無償か一部負担で、ドイツ国内約1700カ所の教育機関などで受講できます。ベルリンにある青少年支援団体「ルーベンスウェルト」もその一つで、約300人が学んでいます。2月、授業を見せてもらいました。教室にはトルコやシリア、アフリカなど6カ国15人が参加。黒人や白人もいて、スカーフをかぶった女性もいます。年代も様々です。

 この日の授業はドイツ語でのフリートーク。記者が取材に来ていたこともあり、ドイツに来た経緯や、統合コースの感想を語り合いました。伝わりにくい言葉が出た場合は、講師がサポートします。

 「私はシリアからボートに乗ったり、森の中を歩いたりしてドイツに来た」。難民のアブナル・アルダヒさん(24)が、泳ぐ身ぶりをしながらドイツ語で発言しました。ドイツを選んだ理由については「どこの国も相手にしてくれなかったのさ」と笑いを誘いつつも、「言葉も無償で勉強できてありがたい。いずれドイツに恩返しするよ」。

 ナイジェリアからの難民、オカイ・フェリスさん(35)は現在は無職ですが、「ここでドイツ語を学んでから運転免許を取って、バスの運転手になるのが夢。それを後押ししてくれることに感謝している」とハンドルを握る格好をしました。

 統合コースは、難民や生活保護受給者は無償。私的な理由で定住を希望する場合は1時間1・9ユーロほどの負担で、コース終了時の試験に一定期間内に合格すれば半額が返還されます。17年までに約195万人が参加。同年は統合コース関連費用に約8億6千万ユーロ(約1080億円)を連邦政府予算として計上しました。

 この制度の背景には、移民に対するドイツの苦い過去があります。ドイツでは戦後の高度成長期に出稼ぎに来た多くのトルコ人らがそのまま定住しました。ですが「移民国家ではない」というドイツの建前のもと、言語教育などの受け入れ態勢が不十分となり、所得や教育水準の格差を生み、外国人居住地域ができるなど、社会の分断を招きました。その反省から、05年に移民法で統合コースを定め、ドイツ語600時間、ドイツの政治や文化を60時間学ぶことになっています。識字ができない人などに向け、能力別のコースがあり、子育て中の親は託児所も使えます。

 授業では一方で、統合コースへの不満の声もあがりました。別のナイジェリアからの難民の男性は「職業紹介所で、統合コースを終えなければ仕事に就けないと言われた。言葉の必要ない仕事もあるだろう。受講を義務にしているのだから、国が費用を負担するのは当然だ」。置かれた状況や語学力によって受講が義務になることから、同様の意見がいくつか出ました。

 ルーベンスウェルトの担当者のイナ・シュタヌラさんは「統合コースは過去の反省を生かした成功事例。ただ、コースを終えて日常生活を送れるようになっても、仕事で使える語学力になるには時間が少なすぎるのが現状」と話しました。(ベルリン=山本恭介)

多言語対応 よろず相談 韓国 労災申請や賃金問題も対応

 ソウルから電車で1時間半。京畿道安山市には、朝鮮系の中国人や中央アジア出身者など外国人8万6千人が住みます。市の人口の約12%にのぼる規模です。

 駅から中国語の看板が並ぶ中央通りを抜けて徒歩10分のところに、市の多文化支援本部(職員30人)の建物(地上3階、地下1階)がありました。そこは、在留許可の更新手続きなどができる国の法務部と雇用労働部の出張所▽仕事や生活の困りごとの相談窓口▽無料診療所▽語学教室▽海外への送金所▽多言語図書館――を備えた、まさに「ワンストップセンター」です。多くは民間委託や大学のボランティアで運営されています。

 市外の外国人も多く利用する2階の「外国人相談支援センター」には、中国やインドネシアなど11カ国出身の相談員が小さな国旗を掲げたブースにずらりと並びます。この日は、金属加工工場のプレス機で手をけがしたインドネシア人のタニさん(29)が来ていました。病院で労災申請に必要な診断書を作成してもらうため、相談員に同行を依頼していました。相談員のエコさん(40)も結婚移住者です。「言葉が通じて、母国の事情も分かっている。ほっとします」とタニさん。

 相談支援センターは労働者が来やすいよう日曜も対応し、電話相談も受け付けています。相談件数は月3500件で、残業代や退職金の未払いなど労働問題が約6割を占めるそうです。

 同センターの権純吉(クォンスンギル)事務局長によると、カンボジア人女性が食品加工工場で重傷を負った昨年9月の労災事故では、雇用主の対応が遅れたため、けがの部位の写真がSNSでカンボジア国内に広まり、外交問題の一歩手前まで発展しました。センターが介入して雇用主と交渉し、女性は労災を申請。現在はセンターが紹介したボランティア施設で暮らしています。

 このケースのように、韓国語が不自由な労働者に代わって、相談員が雇用主と交渉することも多いそうです。「カンボジアでは、韓国は外国人を子どものように大切にするといいながら、実際は違っていると、非難されました。問題にきちんと対応できていないと思われれば、外国人は韓国に来てくれなくなります」と権事務局長。

 1階の無料診療所には、医師と歯科医、漢方医が常駐しています。カザフスタン人のラン・ナタリアさん(36)と友人の男性が、小学生の子どもたちの歯の検診に来ていました。「何でもここでできてしまうので、本当に助かります」

 診療所では、在留許可証など身分証の提示を求められることはありません。同市に1万人以上いるとみられる不法滞在者も来やすくするためだそうです。宋英蘭(ソンヨンラン)・外国人診療チーム長は「彼らの人権も守られるべきです。と同時に、結核や性病など感染症の早期発見は韓国人にとっても重要です」と話します。

 市内にはこのセンター以外にも、結婚で韓国に移住した女性の就労あっせんや語学、文化教育をする「多文化家族支援センター」、多文化家庭の子どもたちに補習授業などを行う「グローバル青少年センター」などもあります。いずれも国の外郭団体が民間委託で運営し、外国人やその子どもは一定の条件を満たせば、無料で利用することができます。

 市多文化支援本部の年間予算は55億ウォン(約5億5千万円)にのぼり、20%を国、15%を道が負担しています。これとは別に、小中学校の教員の加配なども行われています。多文化家庭の子どもの学力が、韓国人の家庭の子どもと比較して低い調査結果もあることから、市は昨年から、5歳以下の子どもがいる多文化家庭に保育園を通じて月20万ウォン(2万円)を支給する制度も始めました。

 林興善(イムフンソン)・市多文化支援本部長は「最近の支援は、外国人やその子どもたちが犯罪に巻き込まれることなく、いかに韓国に定住し、同化してもらえるかに重点を置いています」と話します。(ソウル=吉田美智子)

雇用奪われる不安 議論を 加藤真・三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員

 第2次安倍政権の外国人労働者受け入れ政策の特徴は、ルートの多様化による規模の拡大といわれます。例えば介護分野では既に、経済連携協定(EPA)に基づく受け入れなど三つの在留資格があり、改正入管法によって4本目の受け入れルートができます。建設、造船、農業分野などでは3本目となります。受け入れ側の企業も、外国人も混乱しています。国は中長期的なビジョンを立てて、受け入れルートを統合し、わかりやすい制度に集約する必要があります。

 また、外国人の受け入れによって「自国民の雇用が奪われる」との声がありますが、抽象的な議論から一歩踏み込み、どのような労働者にどんな影響があるのかを検討し、職業訓練などの対応策を練るべきです。

 ただ、それらを分析できるだけの公的な統計データは十分ではありません。就業状態を把握する「労働力調査」や賃金に関する「賃金構造基本統計調査」などで国籍や出生地を尋ねれば、分析のための継続的なデータを収集できます。また、外国人の入国後の追跡調査によって、定期的に政策の効果を検証し、課題を探ることも可能になるでしょう。

 日本人の労働環境の悪化を懸念する意見もあります。確かに、新在留資格の対象業種の宿泊業、外食業、介護などは高離職率、低賃金、高労災率といった特徴が読み取れます。昨年度の労働基準監督署の長時間労働が疑われる事業所への監督指導の結果、7割で労働基準関係法令違反があった実態も踏まえると、日本人を含む労働者全体の労働条件をいかに見直せるかといった議論が必要です。外国人と協力して、国や企業に改善を求めていくこともできるはずです。

地域との接点 共生のカギ ジャンクリストフ・デュモンOECD国際移民課長

 日本政府は新しい在留制度によって、外国人労働者受け入れの大きな数値目標を掲げました。ただ、誰が日本語教育や技能研修を実施し、そのコストを負担するのか不透明な部分も多い。目標を掲げたからには責任を伴います。コンプライアンス(法令や社会規範の順守)を確保し、外国人が搾取されない仕組みをつくり、外国人が日本人とコミュニケーションができるよう、最低限の日本語力を身につけさせる必要があります。また、介護や建設分野では、どのような専門知識や技能が在留条件となるのかを明確にしなければなりません。

 社会統合のコストの負担は、短期の労働者の場合、要求された仕事ができるかどうかが重要になります。企業は人材育成のために投資すれば、見返りを期待できるので、コストを負担する意味があります。

 一方、長期の労働者は言葉を学ぶだけでなく、子どもたちも社会に受け入れられ、地域社会とつながることが大切になります。本人が社会に適合する努力をしなければならないし、地域社会も異なる国から来た人がいることを理解しなければなりません。統合の成功のカギは、移民と社会の接点をいかにつくるかにかかっています。国や自治体の総合的、包括的なサポートが必要になるでしょう。(聞き手・吉田美智子)

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