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健康・医療フォーラム(1)もうつらくないその痛み

 「朝日 健康・医療フォーラム2019」が1月27日、大阪市北区の中之島会館で、2月3日には東京都千代田区のJPタワーホール&カンファレンスでそれぞれ開かれた。大阪会場では元気に長生きするためのひけつ、東京会場では慢性的な痛みへの対処法、便秘の治療と予防、耳鳴りや難聴とのつき合い方について、専門家が解説した。当日の様子を、4回に分けて紹介する。

「安静より、自発的に運動して」 三木健司さん(大阪行岡医療大学特別教授)

 けがで出てくる「急性」の痛みに対し、3カ月以上続く「慢性」の痛みは脳を含めた神経システムがより関係していると言われています。慢性の痛みに悩む人は約2700万人います。

 慢性の痛みで、1人が病院に払う医療費は1カ月2700~3700円。実際にかかる医療費はその約10倍になります。さらに、本人や家族が仕事を休むことによる経済的損失は1兆9530億円に上ります。

 私たちの仲間の調査によると、男女別では女性の方が慢性の痛みを抱える人が多い。30~50代の方が60~80代よりも痛みがある。地方より都会の方が多い。農家の人よりも専門職のほうが多い、という結果が出ています。体を使ったから痛いというより、脳が関係しているのではないかと言われています。

 私は普段、リウマチの患者さんを診ています。薬が良くなり昔よりも手の変形も少なく、大きな手術は減っている。ところが、痛み止めの薬を使う患者の割合はほとんど変わっていません。病気が治ったからといって、痛みがなくなっているわけではないのです。

 歌手のレディー・ガガさんが公表した、(全身に痛みが広がる原因不明の)「線維筋痛症」という病気があります。ドイツのガイドラインは、線維筋痛症については長期の治療として、薬をのむのではなく、患者さんが自主的に有酸素運動や軽い筋力トレーニングをするのがよいと書かれています。日本のガイドラインも、運動療法を「強く推奨する」としています。患者さんは痛かったら動けない。動かないと余計に痛くなる。そのあたりは難しさがあります。

 日本の腰痛診療ガイドラインでも「安静は必ずしも有効な治療法とはいえない」と書かれています。腰痛の人がコルセットをしてもしなくても、痛みは同じだったことが、米国の研究でわかっています。手術した部位が落ちつくまでコルセットは必要ですが、腰痛に対しては効果がありませんでした。

 いろいろな研究で、長期間痛みが続くと、それを脳で覚えてしまうのでずっと痛みが続くと言われています。ひざを人工関節に取り換える手術をしても、8割ぐらいの人しか治らない。腰の手術も受ければ全員が治るわけでもない。手術する場合は何人かの先生に相談したうえで判断するのがいいと思います。

 また、様々な研究で、自発的に運動をすると、痛みがすごく減ると言われています。やらされた場合だとあまり効果がない。心地よい運動だと、(快感を感じさせる物質)「ドーパミン」が出てきます。

 目安としては、運動後の1分あたりの心拍数が、その人の最大心拍数の6~8割程度になる運動がよいとされています。最大心拍数は、220から年齢を引いた数。70歳なら90~120回、60歳なら96~128回を目安にするとよいです。

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 <みき・けんじ> 早石病院(大阪市)で疼痛(とうつう)医療センター長として、慢性の痛みやリウマチの治療などに取り組む。

写真・図版

「心も持ちよう変えると改善」 細井昌子さん(九州大学病院心療内科診療准教授)

 日本人の多くが、体の痛みに悩んでいます。厚生労働省の調査によると、男性で多いのは腰痛、肩こり。女性は肩こり、腰痛、手足の関節痛が多いです。

 私は心療内科で、治療が難しい慢性の痛みの患者さんを診ています。全国から患者さんが来ますが、女性の患者さんは特徴がすごく似ています。妻であり、母であり、娘であり、介護者であるなど、一人でたくさんの役割をこなしています。

 会社で仕事をして家に帰ると、場が切り替わるので、休みをとりやすい。一方、主婦は朝からずっと家事をこなしながら、夕食が終わっても片付けがあるというように、場が切り替わらない。休みがとれずに体も脳も疲れてしまいます。

 家事をまとめて一気にこなすと脳がどんどん興奮して、いざ休もうとしてもなかなか休まらない。中には夜に眠れなくなり、睡眠薬を使っている方もいます。家事の合間にちょこちょこ休む方がいいです。慢性の痛みが治りにくい人は休みをとらずに動き続ける人が多いです。

 心療内科で患者さんの痛みが治るのかと驚く人もいるかもしれません。ただ、治りにくい痛みがある人こそ有用です。

 体の痛みが出るまでの過程を川に例えてみます。体に出る痛みが「下流」にあるとすると、「上流」にあるのは患者さんの感情にあたります。「何もしない人には価値がない」という思いが「上流」にあると、予定がないと心配で落ち着かず、活動しすぎる。このため、心身が疲れ、体の痛みが出てくる。

 痛みを抑える薬をのみ、活動を減らしても、痛みが良くならない人がいます。「下流」にだけ注目して、「上流」にある考え方が変わらないと、なかなか良くなりません。考え方を変える何らかのアプローチが必要になってきます。

 家事や仕事で活動しすぎると、緊張に関わる交感神経系が興奮し、リラックス状態に関わる副交感神経が抑え込まれる。頑張り屋さんは、仕事や家事をやりすぎて自律神経機能のバランスが悪くなってしまう。そうなると自然治癒力が落ちるので、健康に良さそうなことをやっても、痛みが良くならない。

 痛みを感じる神経を大きく分けると、痛みの場所や強さを伝える経路と、苦しみを伝える経路があります。苦しみを伝える経路は、疎外感や不信感がある時にも活性化します。だから、疎外感がある時は痛みがより強くなる。例えば、虐待やいじめなど、幼少期から蓄積された嫌な体験が、大人になって起こった体の痛みで思い出され、痛みを強くすることもあります。

 厚労省研究班の慢性疼痛治療ガイドラインは心理的アプローチが有用だとしています。慢性の痛みは蓄積された無意識のもやもやも影響します。本音を語り合える場をつくることが痛みの予防につながります。

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 <ほそい・まさこ> 日本で最初に心療内科を開いた九州大学病院で心理的アプローチによる慢性の痛みの治療に取り組む。

自然治癒力、ゆったりできるときに働く

 ――そもそも運動をすることで、痛みが和らぐのはなぜでしょうか。

 三木 痛みというのは、肩に異常があって痛いという「器質的」なものと、そうではない「非器質的」なものがあります。長く続く痛みはある程度、脳で痛みを感じています。そのときに運動をすると、「幸せホルモン」とも呼ばれるドーパミンが出ます。脳が喜んで、痛みが減ります。

 「やらされ感」があったり、健康になりたいと必死でやり過ぎたりするのは良くありません。「ついでに健康になったらいい」ぐらいの気持ちの方が、脳にとってはよいです。

 ――運動しても改善しないのは心理的な原因ですか。

 細井 そうですね。私のところには、いろいろな方法を試したけれど、良くならない方が多数来られます。不思議ですが、どうも体に良いことをしようと思いすぎて、ほっとする時間がないようです。自然治癒力は安心できる時間に働く。運動後20~30分でも何も考えず、ゆったりする時間をつくってみましょう。

 ――コルセットをつけることで悪影響はありますか。

 三木 漫然と毎日コルセットをしていると、背中の後ろにある四角い筋肉がやせてしまいます。コルセットをすると背中に力がいらないので快適ですが、外すと痛いので、余計に外せなくなってしまいます。

 ――女性に痛みが多いのは男性が追い込んでいるからですか。

 細井 家庭で「休みモード」の夫と、脳が休まらない妻で行き違いが起き、妻が追い込まれることはあります。愚痴を言い合う時間を大切にし、つらい感情をねぎらい、もやもやがすっきりする関係を築くことが重要です。

◆コーディネーター 編集委員・田村建二