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健康医療フォーラム(3)耳鳴りや難聴とのつき合い方

 「朝日 健康・医療フォーラム2019」が1月27日、大阪市北区の中之島会館で、2月3日には東京都千代田区のJPタワーホール&カンファレンスでそれぞれ開かれた。大阪会場では元気に長生きするためのひけつ、東京会場では慢性的な痛みへの対処法、便秘の治療と予防、耳鳴りや難聴とのつき合い方について、専門家が解説した。当日の様子を、4回に分けて紹介する。

耳鳴り「ノイズ」で緩和した 鈴木惣一朗さん(音楽家)

 難聴にまつわるキャリアは長く、もはやプロの領域です。音楽家として30年以上経ちますが、20年ぐらいで左耳の突発性難聴を何度か経験しました。めまいを伴うメニエール病もです。

 症状が出るのは決まって、制作した音楽アルバムが完成した翌日。疲労がピークの時になるようです。その度にステロイドをのんでいましたが、6年前に今度は右耳が慢性的な耳鳴りになりました。突然「キーン」と聞こえてきて、最初はエアコンや冷蔵庫の音かと思いましたが、自分の中から聞こえていると自覚したときは、すごく怖かったです。

 とにかく寝られない。まず最初につらかった。耳鳴りを一生懸命聞き始めちゃって。でも、加湿器や空気清浄機が動いている時は何となく緩和された。音楽制作ではノイズは排除するべき対象になりますが、耳鳴りの人にとっては悪いものじゃないんではないか、と思いました。

 ノイズについて積極的に調べました。ラジオもいい。どこの局にもチューニングしない「サーッ」という音です。ラジオを耳元でかけて寝て、朝起きたら消す。4~5年繰り返しています。紛れるんです。

 なぜかと思い、主治医の慶応大学病院の大石直樹先生にお会いした時に聞きました。ノイズのような他の音があると耳鳴りに注意が向かず、緩和されると分かりました。スマホでダウンロードできるノイズもあります。

 病院では聴力検査の後、心のチェックシートや自律訓練法を通じて、耳鳴りは心の問題なんだと気づきました。そしてある時、大石先生に「よくなっています」と言われました。その響きが僕は心地よかった。「治る」と「よくなる」は違うと気付いた。排除できない耳鳴りに対する積極的な諦めです。耳鳴りと共存する。きれいごとかもしれませんが「よくなっている」と思えることが大事です。

 耳鳴りの体験をCDブックにしました。世の中にはモーツァルトとか「癒やしの音楽」が蔓延(まんえん)していますが音楽は個人の好みに左右される。僕が実験台になり、耳鳴りが楽になる音楽を作ろうと思いました。耳鳴りで今も悩む坂本龍一さんに伺った話も掲載させていただきました。

 CDブックのイベントには、耳鳴りの悩みを持つ患者さんが来ます。すると自分は患者でありつつ患者と医師の間に立っている。音楽家は表現者なので、この状態を表現することが、医師と患者をつなぐ仲介者としての仕事ではないかと思い始めています。

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 <すずき・そういちろう> 細野晴臣プロデュースでデビュー。「耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック」を発売。

補聴器、訓練重ねて活用を 杉浦彩子さん(国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科客員研究員)

 耳は「外耳」「中耳」「内耳」と三つの場所に分かれます。外耳は音を集めて増幅します。鼓膜から先が中耳。鼓膜がパラボラアンテナのように効率よく音を受け止め、耳小骨という小さな骨がまた増幅します。

 この音を脳に伝えるのが内耳です。カタツムリのような形の「蝸牛(かぎゅう)」があり、リンパ液が詰まっています。ここで音の波をリンパ液の流れに変えます。蝸牛の中には毛のような構造を持つ「有毛細胞」があり、毛が振動することで音を調節したり、電気信号に変えたりします。その信号が神経を経由して脳に届くのです。この毛は伸縮するので消耗が激しく、とくに音の刺激で障害を受けやすいです。

 難聴を起こす原因は主に二つ。外耳と中耳に原因がある「伝音難聴」と、内耳より先に障害がある「感音難聴」です。伝音難聴は治しやすいですが、感音難聴は根本的な治療が難しいのが現状です。

 代表的な伝音難聴は、耳あかが鼓膜を塞いだり、鼓膜に穴が開いたり鼓膜の奥に液やうみがたまったりするものです。感音難聴は急性と慢性があり、急性で有名なのは突発性難聴。難聴やめまいを繰り返すメニエール病や大きな音を聞いて聞こえなくなる音響外傷もあります。慢性は遺伝性難聴や騒音性難聴、加齢性難聴などです。

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 有毛細胞は再生しないので、少しずつ傷むことで加齢性難聴は進むことが多いです。高音から聴力低下が進みがちで、早口や雑音の中での会話などを聞き分けにくくもなります。日常会話に聞き返しが増える中等度の難聴は70代で1~2割、80代で3~4割です。

 最近、難聴が認知症の発症に関わっているのではないか、といわれています。

 感音難聴は現時点で根本的な治療法はなく、補聴器が治療法となります。しかし難聴で補聴器を持っている人は欧米で3割程度なのに日本は14%。満足度も低い。私は販売ルートに一因があるのではないかと考えています。補聴器は専門店で十分な試聴を経て購入すべきです。きちんと活用すれば、音と音を聞き分ける能力が伸びます。毎日決まった時間、しっかり音を聞き取る訓練をしながら使うことが大切です。

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 <すぎうら・さいこ> 加齢性難聴を専門に臨床・研究に従事。豊田浄水こころのクリニック(愛知県)で心療耳科外来を行う。

楽になるための「対処法」とは 大石直樹さん(慶応大学病院耳鼻咽喉科外来医長)

 お話しするのは耳鳴りの「対処法」です。耳鳴りはこういう薬をのめば治るというものがないちょっと難しい疾患です。それを普通に生活でき、耳鳴りを感じないような状態まで変えていくのが治療の目標になります。患者さんには「耳鳴りで一番困っていることは」と聞きます。改善可能な点があれば治療可能だということになります。

 耳鳴りを自覚している人は日本で1500万人程度と言われます。うち病院で治療を求める人は2割で約300万人。受診理由は心理的苦痛と生活障害です。心理的苦痛は「脳腫瘍(しゅよう)があって耳鳴りがするんじゃないか」といった病気の心配など。生活障害は集中力の低下や不眠。ともに重症化するとうつ状態になったり、社会生活ができなくなったりします。

 耳鳴りと難聴を混同している人も多く、「耳鳴りで聞こえない」と訴える患者を検査すると約半分は難聴です。

 どうして耳鳴りがするか分かっていません。ただ、脳の中の神経活動の結果、「音が鳴っていると自覚している状態」が耳鳴りというのが今の理解です。聴力が正常な人は、低い、中ぐらい、高い音も同じように蝸牛(かぎゅう)から脳に伝わります。高齢になると高い音の情報の入力が弱くなり、中枢側の神経が過剰に興奮する。これが耳鳴りと関係すると考えられています。

 急に音が聞こえると脳は本能に基づいて警戒しますが、いつも聞いていると意識しなくなる。耳鳴りも多くの方は自然にそうなって気にならなくなる。そうでなくて気になり続ける要素には、気持ちの落ち込みやうつ状態、不安、イライラ、怒りなどがあります。

写真・図版

 これらを何とかできれば耳鳴りが楽になる。そのため「自律訓練法」や音で注意をそらす「音響療法」といった治療が成り立ちます。治らないけど対処法はあるんです。

 音響療法だと、つらい時に聴く自分に合う音源を探しておくと楽になります。また補聴器から十分な音が入ると、脳の神経活動が抑制されて耳鳴りが軽くなる人が多いです。耳鳴りを消したいと思いがちですが、消えない場合にどうできるかに頭を切り替えられるといいなと思います。

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 <おおいし・なおき> 慶応大医学部耳鼻咽喉(いんこう)科専任講師などを経て2017年から現職。専門は耳科学、聴覚医学、頭蓋(ずがい)底外科学。

貝やレバーで亜鉛摂取

 ――難聴の予防法は。

 杉浦 大きすぎる音を長時間聞かないのが一番です。適度な運動は耳鳴りにもいいので、週に2~3時間は、少し心拍が速くなり軽く汗ばむぐらいの運動がいいと思います。食事は亜鉛の摂取が結構大事です。炭水化物寄りの食事をしていると不足しがちになります。貝類、レバーなど内臓系のものに多く含まれます。

 ――難聴や耳鳴りは、外からは分からないので周りが理解しづらいのではないでしょうか。

 鈴木 外傷と違うので、外から理解されることはないと思います。「苦しい」と言っても他人からは分からない。でもそこでとどまっては駄目。他の人と聞こえ方が違うということを、自分の個性というところまで持っていけるかが勝負だと思います。音楽をやっていると分かるんですが、耳の形は違うのでみんな違って音楽は聞こえます。その平均を取って音楽制作をしている。僕に聞こえる音は皆さんとも違う。それは個性でもあり、耳鳴りによってより色濃いものになっている。そこまで持っていければ、もう一つ柔らかい気持ちになれるのではないかというのが僕の考え方です。

 ――難聴のあるなしに関わらず、より良いコミュニケーションの仕方とは。

 杉浦 耳が聞こえないと会話によるコミュニケーションが取れず、社会的に孤立したり元気がなくなってしまったりする方もいます。しかし、表情とか身ぶり手ぶり、手話、筆談など色々な手段があります。聞こえなくても、誰とどのようにコミュニケーションを取るかが、難聴に限らずよりよく生きていくために大事だと思います。

◆コーディネーター 科学医療部・大岩ゆり