【動画】無理ゲー過ぎる?産後の就職 実際に働く人、これから働きたい人の声は…=筋野健太撮影

皆さんの身近な困りごとや疑問をSNSで募集中。「#N4U」取材班が深掘りします。

 「#保育園落ちた」「#保育園に入りたい」。新年度を前に、今年もそんな声がSNS上にあふれている。中でもこれから仕事を探したいという専業主婦にとっては、保育園を探す「保活」と、勤め先を探す「就活」の二つの高い壁が同時に立ちはだかる。壁を乗り越える道筋はあるのか。読者の疑問や困りごとを取材する朝日新聞「#ニュース4U」取材班が探った。

「私も稼がなくちゃ」ため息

 「保活と就活の両立って、無理ゲー(クリアが困難なゲーム)じゃないですか?」。山梨県に住む専業主婦の女性(35)は、ため息をついた。ツイッターに「#保育園落ちた」と書き込んだ1人。

 大学卒業後、正社員として4年半働いたが、遠距離恋愛をしていた夫との結婚を機に退職。夫の住む山梨県に引っ越した。

 家計の収入は夫頼み。自分の服を買うのも、夫に申し訳なくなる。「同世代は働いている女性が多い。『専業主婦でいいね』と言われることもある。勝手にコンプレックスを感じてしまって……」。昨年3月、3人目を産んだ。教育費や将来を考えると、「私も稼がなくちゃ」と気をもむ。

「女性活躍って言われても」

 昨年秋、「求職」を理由に保育所の今年4月からの入所を申し込んだが、落選。ネットで認可外の保育施設を探したが、近くにあるのは1時間ごとに1千円近い利用料がかかる託児所や、月額5万円前後の保育所。就職のめども立っていないのに、今の自分には高すぎる。

 女性活躍推進法が2016年4月に施行されて約3年。「こんな状況で女性活躍って言われてもなぁ」。心の中で愚痴りながら、保育所の空きが出るまで待ち続けるつもりだ。

四つの保育園、すべて落ちた

 1歳の長男を育てる大阪市の女性(29)は、妊娠を機に前の職場を辞めた。出産後も仕事を続けるつもりだったが、当時の職場は夜勤や休日出勤が多かった。「子どもの成長を受け止めながら続けられる仕事じゃない」と考えた。

 出産後に長男を保育所に預けて就職活動を始めようとしたが、申し込んだ近所の四つの保育所にすべて落ちた。1時間1300円の託児所に長男を預けて訪ねた就職説明会では、「まずは子どもを毎日預けるところを決めましょうね」と、やんわり追い返された。

 仕事を辞めなければよかったかも、と思う。でも、前の職場は時短勤務も申請しづらい組織体質だと感じていた。あの職場で働き続け、子どもにも夫にも職場にも謝りながら生きるのは嫌だ。時短勤務を堂々と取って、少しずつでもキャリアを積める職場を探したい。

 「でもまずは保育所が決まらないと動き出せない」。焦りだけが募る。

認可保育所「求職中」だと不利

 いったい国の制度はどうなっているのか。

 15年に施行された「子ども・子育て支援法」の施行規則では、保護者が「求職活動」をしている場合も保育所に子どもを預けられると明記している。だが、実際には、求職活動だけを理由に保育所に子どもを入れるのは難しい場合が多い。

 昨年4月1日現在の全国の待機児童数は1万9895人。特定の保育所を希望しているなどと判断され、認可保育所に入れなかったのに待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」は7万1300人に上る。

ポイントもとに自治体が決定

 認可保育所の入所者は、自治体が決めている。その際、求職中だと、共働きに比べて圧倒的に不利になることが多い。

 自治体はそれぞれの家庭の「保育の必要性」を点数化し、高い順に優先順位を決めるのが一般的だ。例えば東京都世田谷区では、夫婦ともフルタイムで働く家庭は100ポイントなのに対し、夫がフルタイム勤務だが妻が求職中の場合は60ポイント。大阪市の場合はそれぞれ200点と130点。大きく差がついている。

 世田谷区の担当者は「すでに仕事をしている人と、これから探す人を全く同じにはできない」と言い、大阪市は「緊急性で考えると、すでに働いている人を優先せざるを得ない」と説明する。

母親も働く「当たり前」に

 いま、産後も働きたいという女性は増えている。

 ベネッセコーポレーションによると、0~2歳児が対象の育児雑誌「ひよこクラブ」の読者のうち、専業主婦は2009年に65%を占めたが、18年は42%に減った。過半数の母親が仕事に就いていることになる。

 「かつては夫の収入でやりくりするのが典型的だったが、『足りないなら母親も働く』ことがここ数年で当たり前になりつつある」と、同社たまひよ事業部の荒川悦子さんは言う。

 「家計のためだけでなく、自己実現や自分の老後を見据えて働く女性が増えている。産後に働こうという女性はどんどん増える」と荒川さんはみる。

業務中に子どもの迎えもOK

 産後の就職を目指す女性は、どこに子どもを預け、どこで働けばいいのか――。その両方に「解決策」を示している企業がある。

 大阪市西成区のタクシー会社「南大阪第一交通」。北九州市を拠点に全国に展開する第一交通産業グループの1社だ。

 運転手経験のない女性が挑戦しやすいように、16年に固定給制を導入。17年には社長室と応接室を撤去し、「企業主導型保育所」をつくった。

 他の保育所に子どもを預けている母親は、子どもが体調を崩したという連絡があれば自分が運転するタクシーで迎えに行くことを認めている。営業中にドラッグストアでオムツを買って車に積んでもとがめない。もともと1人だった女性運転手は9人に増えた。

女性の接客好評、指名増えた

 高江洲(たかえす)千里さん(24)はその1人。高額の認可外保育所に長男を預けて大阪市内のIT会社に勤めていたが、「子育てに理解のある会社で働きたい」と1年前に転職した。もともと接客が好きだった。「毎日いろんな人と話せる。『キツイ仕事でしょ』という人もいるけど、私たち女性が活躍することでタクシー運転手全体のイメージを変えたい」と話す。

 「女性運転手の接客は好評で指名が増えている。男性も刺激を受け、社全体の接客の質が良くなっています」。同社本社営業所の熊谷仁所長(42)は言う。

 高齢化による人手不足は深刻だ。ワーク・ライフ・バランスを重視する母親や若い層に働いてもらえるよう、職場環境をさらに充実させたいという。

国も支援、セミナーは盛況

 こうした子育てに理解のある企業と母親をマッチングするため、厚生労働省は全国のハローワークに「マザーズコーナー」を、16都道府県には専門施設の「マザーズハローワーク」を21カ所開設している。

 「大阪マザーズハローワーク」では、子育て中の女性を多く雇ったり、保育所を設けていたりする企業を「ハローマザー企業」として登録。今年度は大阪府内60社が登録し、61人の母親が就職を決めた。

 松原昌代・大阪マザーズハローワーク所長は「働きたいのに諦める女性がたくさんいる。課題は子どもの預け先です」と言う。

課題は子どもの預け先

 松原さんらは、今すぐ働きたいが認可保育所に入れないという母親に、まずは認可外の保育施設を利用して就職を決め、働き始めてから認可施設に移ることを目指すようアドバイスしている。就労することで、自治体の「保育の必要性」の点数を高く評価してもらうという「作戦」だ。

 また、企業主導型保育所や託児所つきの仕事の紹介もする。子どもが幼稚園に入れる年齢なら、幼稚園に子どもをみてもらえる時間帯だけで働ける仕事を紹介することもある。「働きたいが何から始めればいいか分からない」という母親向けに、子連れで参加できる座談会を毎月開き、情報交換の場もつくっている。

 「理解ある企業の発掘とマッチングに努めて、働きたい母親の背中を押したい」と松原所長は言う。

働きたいのに…だから「起業」

 大阪府豊中市で抱っこひもの収納カバー専門店「ルカコ」を経営する仙田忍さん(41)も、かつて産後の再就職に苦しんだ。

 短大を出て歯科衛生士として10年働き、不妊治療を機に仕事を辞めた。2人の子どもを授かった後、仕事を再開しようとしたところで壁にぶつかった。

 保育所の入所を市役所に申し込むと、「いま働いている人が優先」と言われた。歯科医院3カ所から内定をもらったが、保育所が決まっていないことを伝えるとすべて断られた。

 働きたいのに働けない。そこで考えたのが「起業」だった。抱っこひもの収納カバーを自作して売り始めた。育児雑誌で取り上げられ、半年後には月100万円を売り上げるように。

 「あのころ働けなかった自分と同じ状況のお母さんを雇いたい」。幼稚園に子どもを通わせていたり、自宅に乳児がいたりする人でも働きやすい条件で求人広告を出した。70人から応募があり、30人を雇った。ほぼ全員が子育て中だ。

好きな時間帯で働けるように

 家庭の状況に応じて好きな時間帯で働けるようにしている。縫製スタッフは乳児と一緒に在宅で仕事もできる。短時間勤務できる人を多く雇い、仕事をシェア。いつ働いても、いつ休んでもいい。そんな職場を目指す。子どもの成長と共にフルタイムの仕事へと転職する母親も見送ってきた。

 「社会から離れて自信を失い、出産前と同じように働けるのかなと不安に思っている女性も多いと思う。でも、育児を経験した女性は仕事の効率がいい。学べばどんどん伸びる。自信を持って、まずは一歩前に踏み出してほしい」と仙田さんは言う。

専門家「早く動いた方がいい」

 政府は今年10月からの幼児教育・保育の無償化を目指す。労働政策研究・研修機構の周燕飛(えんび)主任研究員は「保育施設不足はますます加速する。当然国に保育の受け皿を増やす責任はあるが、いま小さい子がいる母親はそれを待っていては遅い」と指摘する。

 機構の調査では、子どもの小学校入学以降に働き始めようと考える専業主婦は多い。だが、「ブランクが長い女性の就職は厳しく、想像以上に大きな壁となる。例えば認可外施設に預けてパート代が全て保育料に消えたとしても、長期的に見ればその後の年収や生涯賃金に大きな違いが出てくる。勇気を出して、なるべく早く動いた方が良い」と背中を押す。

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 朝日新聞「#ニュース4U」では、読者のみなさんの身近な疑問や困りごとを募集しています。公式LINE@アカウントで取材班とやりとりできます。お気軽にお寄せください。(山根久美子、沢木香織)

働きたい母親の相談先の例

・全国のハローワーク(厚生労働省ホームページ)

https://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html別ウインドウで開きます

・全国のマザーズハローワーク(厚生労働省ホームページ)

https://www.mhlw.go.jp/kyujin/mother.html別ウインドウで開きます

・仕事と育児カムバック支援サイト

http://comeback-shien.mhlw.go.jp/別ウインドウで開きます

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 〈子ども・子育て支援新制度〉 待機児童の解消や保育の質の改善を目指し、2015年4月にスタート。それまで認可外施設とされていた小規模保育(定員6~19人を保育)や、家庭的保育(5人以下の子どもを保育)を認可施設として制度の枠組みに入れて、幼稚園と保育所両方の機能を持つ認定こども園の普及を目指すことで、保育の受け皿の拡大を図った。

 保育を利用できる対象も具体的な条件が明確化されて広がった。親が求職中や就学中、パートや在宅勤務の場合、以前は自治体によっては利用対象とならなかったが、新制度で原則として対象となった。

 だが、保育の受け皿の問題は解消されておらず、18年4月時点の待機児童は1万9895人。認可保育所に入れなかったのに待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」は7万1300人に上る。

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