【詳報】「国策捜査」主張し一句 籠池節、初公判でも
学校法人森友学園(大阪市)による補助金不正事件で、詐欺などの罪に問われた学園前理事長の籠池泰典被告(66)と妻の諄子(じゅんこ)被告(62)の初公判が6日午後2時から、大阪地裁(野口卓志裁判長)で始まる。籠池夫妻は法廷で何を語るのか。一日を追った。
今後19人に証人尋問(社会部司法担当キャップ 平賀拓哉記者)
法廷でも「国策捜査」の持論を展開し、検察側との対決姿勢を示した籠池泰典被告。第2回公判は5月29日で、この日から7月までの11回の公判で19人に対する証人尋問が始まる。
証人は校舎の施工に関わった設計業者や建設業者の担当者、幼稚園の元職員などで、捜査段階で籠池被告夫妻が補助金詐取に関与したなど、多くは籠池被告側に不利な内容の供述調書に署名したとみられる。
被告側は「詐取に関与した業者らを不起訴にする代わりに証拠を提出させるなどの違法な捜査があった」とし、両被告だけを起訴したのは「公訴権の乱用だ」として公訴棄却を求めており、関係者が公判でどう証言するか注目される。
その後8、9両月に被告人質問があり、10月30日の第15回公判で結審する予定だ。
地裁を離れる籠池被告「言うべきことは言いました」(17:00)
午後5時、初公判を終えた籠池泰典被告と諄子被告は大阪地裁を後にした。泰典被告は報道陣に対して「言うべきことは言いました」と語った。
閉廷で籠池被告、深々と一礼(16:50)
初公判の終盤は証拠調べへ。検察側は採用された証拠として、国土交通省や大阪府、大阪市の職員らの調書を紹介した。
午後4時50分、3時間近くに及んだ初公判は閉廷した。籠池泰典被告は裁判長の席の前で深々と一礼し、法廷の外に出た。諄子被告も追うように続いた。
菅長官「国民の信頼が揺るがないよう取り組む」(16:10)
安倍政権を揺るがせた一連の森友学園問題。中心人物である籠池泰典被告らの初公判を、永田町はどう見たのか。
菅義偉官房長官は首相官邸で開かれた午後4時過ぎの記者会見で、籠池氏の初公判について問われ、「個別の事件についてコメントは控えたい。ただ、あらゆる行政プロセスが公平、そして適切に行われるのは当然のことであり、今後ともこうした点に対して国民のみなさんの信頼が揺るぐことがないように取り組んでまいりたい」と語った。
国民民主党の玉木雄一郎代表は会見で「当時の行政側の対応もどうだったのかも明らかにしてもらいたい」と指摘した。国有地値引きを巡る一連の経緯について「普通なら認められないものが、まさに忖度(そんたく)も含めて、みんなでよってたかってあの学校ができるように動いた形跡もないことはない」とした上で、「籠池夫妻に対する罪と、大阪府・国が一体どのような動きをしたのか。行政側の動きについてもぜひ明らかにしてもらいたい」と注文した。
また、同党の舟山康江・参院国会対策委員長も会見で「事実関係を司法の場で明らかにして、全貌(ぜんぼう)解明につなげてほしい。この問題の原因、発端、糸口がどこにあったのかをしっかり注視していきたい」と述べた。
弁護側、捜査に疑義(16:10)
検察側の冒頭陳述に続き、弁護側も冒頭陳述を終えた。
検察側は冒頭陳述で、学園は小学校の校舎建設資金を集めることが困難だったと指摘。そこで2人はできるだけ多くの補助金をだまし取ろうと考え、業者に虚偽の申請を指示したという構図を描いた。幼稚園での詐取金は、運営資金や小学校の建設資金にあてていたと述べた。泰典被告の「国策捜査」批判には耳を貸さず、多額の補助金を詐取したこと自体が重大な犯罪だと強調する構えだ。
一方、弁護側は冒頭陳述で、国への補助金申請は「業者が考えて主導した」と主張。幼稚園の補助金については、起訴された申請分のうち一部は園児に適切な支援をしていたと訴えた。諄子被告側は不正な申請への関与を一切否定した。
弁護側の冒頭陳述では、泰典被告が訴える「国策捜査」という言葉は用いなかったが、一連の森友問題をふまえて「疑惑を否定しようとする何者かの思惑により、政権中枢から籠池夫妻をできる限り遠ざけようとする力が働いたのではなかったか」などと特捜部の捜査に懐疑的な見方を示し、裁判所に厳格な事実認定を行うよう求めた。
法廷画家が見た籠池被告(16:00)
初公判の法廷は午後4時を回った。籠池被告夫妻の法廷イラストを手がけるのは、関西の刑事裁判で被告の姿を描き続けている画家の岩崎絵里さんだ。
岩崎さんは「泰典被告は入廷時から『受けて立つぞ』という意欲がすごかった」と、廷内での被告の様子を語った。諄子被告については、泰典被告が話しているとき、一言一句を聞いているように見えたという。
「安倍首相、保身に舵切った」(14:20)
籠池泰典被告は紺色のスーツと金色のネクタイ姿で法廷に入ると、裁判長に深く一礼して席についた。グレーのスカートのスーツを着た諄子被告が続いた。人定質問の後、まずは検察官が起訴状を朗読した。
午後2時20分ごろから、注目の罪状認否に移った。裁判長から認否を問われた泰典被告。起訴内容の一部を否認し、逮捕・起訴を「国策捜査だ」と非難した。諄子被告は無罪を主張した。
泰典被告は用意した書面を読み上げた。大阪府豊中市内の国有地が森友学園に大幅に値引きした価格で売却されたのは、官邸からの意向と忖度(そんたく)があったからだと訴えた。補助金不正事件で自らが逮捕・起訴されたことは「国民の目をそらせるために別件逮捕した」と批判。さらに、「安倍(晋三)首相は自らの保身に舵(かじ)を切った」とも指摘した。
そして、最後を俳句で締めくくった。
「りんと咲く 日の本一の 夫婦花」
泰典被告は一部否認、諄子被告は無罪主張
「疑わしきは被告人の利益に」という言葉がある。刑事裁判の鉄則を示している。さらに、有罪判決が確定するまでは「推定無罪」が前提だ。ある人物について有罪の疑いがあるとして「起訴」した検察は、証拠に基づいて、それを立証しなければならない。
今回は市民が参加する裁判員裁判ではなく、プロの裁判官3人が裁く。裁判ではまず起訴状を検察官が朗読し、被告は「罪状認否」で内容を認めるかどうかを答える。この日、籠池泰典被告は一部を否認し、諄子被告は無罪を訴えた。
続く「冒頭陳述」では、検察側が裁判で主張する内容を説明。弁護側も自分たちの主張を述べることができる。その後は「証拠調べ」に入る。調書が証拠として採用されれば、その内容の読み上げがあるほか、証人や被告本人に対する裁判官や検察官、弁護人らの質問がある。
こうした結果を踏まえ、有罪か無罪か、有罪の場合は量刑がどのくらいかを判断する。一審に不服があれば、被告側・検察側双方とも控訴できる。控訴があれば、裁判は二審に移る。
(金子元希)
日本維新の会幹事長「いろいろな疑問、明らかになれば」(14:00)
日本維新の会の馬場伸幸幹事長(衆院議員)は国会内での記者会見で、初公判への期待について問われ、「いろいろな疑問は残っている。そのへんが明らかになればいい。大阪でもまだその話題が出ることもあるので、真実が何であるをつまびらかにする裁判になってほしい」と述べた。「籠池さんの問題については、我々はまったく関わっていない」とも強調した。
開廷される(14:00)
午後2時、大阪地裁本館2階にある201号法廷は開廷時間を迎えた。初公判が始まった。
報道陣待ち構える中(13:42)
午後1時42分、籠池泰典、諄子の両被告が、報道陣数十人が待ち構えるなか、大阪地方裁判所に入った。
54の傍聴席に642人集まる(12:34)
大阪地方裁判所では、籠池泰典、諄子両被告の初公判を傍聴しようと、駐車場や芝生に計642人が集まった。事前に抽選券が配られ、傍聴できる人が決まる仕組み。午後0時34分、傍聴できる54席の当選番号が発表された。
取引の背景、浮かび上がるか(森友問題を追ってきた吉村治彦記者)
森友学園に国有地が隣の10分の1の価格で売却された。2017年2月にその問題を報じてから2年余り。森友学園前理事長の籠池泰典被告と妻の諄子被告が法廷に立つ。
取材を始めたとき、森友学園は小学校の建設に突き進んでいた。やがて疑問に感じるようになったのは、資金繰りに困っていた森友学園が、なぜ開校寸前までたどり着けたのかという点だ。学園の財務状況は、小学校を認可する大阪府の審議会が懸念するほど脆弱(ぜいじゃく)だった。
今回の起訴内容の一つは、小学校の建設工事で虚偽の契約書を提出し、工事費を水増しして国の補助金約5600万円をだまし取ったというものだ。資金集めに躍起だった籠池夫妻が不正に関与したのか。公判での解明が待たれる。
一方、国有地取引の問題を追ってきた立場からは、籠池被告や関係者の証言から取引の背景が浮かび上がるかどうかに注目したい。
大幅値引きに加え、分割払いを認め、売却額を非公表にする――。政府は一連の取引を妥当だと説明しているが、異例の対応を重ねた背景はまだ不透明だ。
公判で取引の妥当性が直接問われることはないが、これこそが森友学園問題の核心だ。法廷の場で、真相が少しでも照らし出されることを期待している。
初公判冒頭、被告らの発言に注目
泰典被告は起訴内容を一部否認したうえで、「口封じのための国策捜査だ」と主張し、諄子被告は無罪を訴える方針だ。この日の初公判の冒頭には被告夫妻が自ら意見を述べる機会があり、発言が注目される。
起訴状によると、両被告は2016年2月、学園が大阪府豊中市の国有地に開校を目指した小学校建設工事で、虚偽の契約書を提出するなどして国の補助金約5644万円を詐取。11~16年度、学園運営の幼稚園などで病気や障害のある園児に特別な支援をしたと偽るなどして、府と大阪市の補助金計約1億2千万円をだまし取ったとされる。
関係者によると、泰典被告は「国の補助金申請は校舎の設計業者などに任せていた」「起訴された幼稚園の補助金申請の一部は適法」などと主張。争点は両被告に詐取の認識があったのか、諄子被告の共謀が成立するのかなどの点に絞られている。また詐欺罪ではなく、法定刑の軽い補助金適正化法違反罪の適用を求める。
さらに「詐取に関与した業者らを不起訴にする代わりに証拠を提出させるなどの違法な捜査があった」とも主張する方針だという。裁判は10月30日の第15回公判で結審する予定で、それまでに業者関係者ら計19人に対する証人尋問や被告人質問が行われる。
両被告は17年7月に逮捕され、約10カ月後の昨年5月に保釈された。泰典被告は今年2月の朝日新聞のインタビューで「安倍晋三首相の妻昭恵氏の学園への関与について口止めするのが目的の国策捜査だった」と批判している。
一連の問題の捜査に当たった大阪地検特捜部は両被告を17年9月に最終起訴した後、国有地の大幅値引きをめぐる背任容疑や公文書の改ざんをめぐる有印公文書変造容疑などで捜査を続けたが、18年5月に財務省関係者ら38人をいずれも不起訴とした。この処分が妥当だったかどうか、検察審査会で審査が続いている。(畑宗太郎)
籠池泰典被告のこれまでの主な発言
「何かことがあったとき、自分の身を捨ててでも人のためにがんばんなさい。そういう教育勅語のどこが悪い。まったく悪くない」
(17年3月9日 小学校の設置認可をめぐる府教育庁の現地調査後)
「当初から私は安倍晋三先生に対して敬愛以上のものを持っておりました保守の人間であります」
「(国有地を大幅に値引きして購入できた経緯について)神風が吹いたかなと思った。何らかの見えない力が動いたのではないかなと思った」
(17年3月23日 国会の証人喚問)
「警察ではなく、どうして特捜(地検)が入ってくるのか。国策捜査だ」
(17年6月20日の家宅捜索後)
「うそを言うな。民主主義を守れ」
(17年7月1日 安倍首相のJR秋葉原駅前での都議選の街頭演説で)
「新しい国日本を支える人材を育てる小学校を作ることは、かねての念願でありました」
(17年7月10日 大阪府議会の参考人招致)
「これは国策勾留であるというふうに私は認識しております」
(18年5月25日 保釈後の会見)
「(安倍首相の妻昭恵氏と一緒に撮った)写真はとどめ。財務省のギアがひとつ変わったんじゃないですか。ガッと」
(19年2月5日 朝日新聞のインタビュー)
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