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【アピタル+】患者を生きる・食べる「O157」(腸管出血性大腸菌、溶血性尿毒症症候群、HUS)

 O157などの腸管出血性大腸菌(EHEC)による食中毒は、重症化すると死に至ったり、重い後遺症が残ったりすることがあります。菌が出す毒素によって貧血や急性腎不全になる「溶血性尿毒症症候群(HUS)」は最も警戒すべき病気です。HUSに詳しい国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長(65)に聞きました。

 ――EHECは普段おなかにいる大腸菌と何が違うのでしょう。

 毒素を出す点です。大腸菌はたくさん種類があります。その中にはO157のように毒素を出すものがある。これらは普段、人間のおなかではなく、牛や鹿の腸の中にいる。

 牛や鹿がなぜ平気かというと、細胞の表面に毒素と結合する受容体(レセプター)がないんです。人間にはある。たまたまO157で汚染されたものが人間の口に入ると、感染してしまう。

 例えばアメリカやカナダでは、農場に落ちたリンゴを鹿が食べに来て、菌を含んだふんをする。農家の人が落ちたリンゴを使って非加熱のアップルサイダーを作ると、菌で汚染されていて感染が広がるということもありました。

腸管出血性大腸菌(EHEC)
大腸菌のうち、O157のように毒素を出すもの。牛や鹿の腸の中にいる。

 ――HUSを発症する人としない人の違いは。

 EHECがつくる毒素は体内に吸収され、血液に入ります。そして、体全体を回り、腎臓などレセプターがある臓器が障害を受けます。その結果、貧血や血小板減少、腎不全が起こります。この状態がHUSです。脳に毒素が回った場合は、脳梗塞(こうそく)や脳出血などの脳障害が出て、後遺症が残ることもあります。腎臓の障害も同様です。

 HUSを発症する人としない人の違いは、体質なのか、菌を含む物を食べた量なのかは、分かっていません。O157は胃酸では死なず、腸内で増殖します。菌が増えれば毒素も増える。食べた量も関係するでしょうし、体内に吸収される毒素が多いかどうかは腸の状態で変わると思います。

溶血性尿毒症症候群(HUS)
腸管出血性大腸菌(EHEC)が出す毒素が、血液に入って全身を回った結果、貧血や血小板減少、腎不全などが起こる状態。

 ――下痢止めや抗菌薬(抗生物質)の効果は。

 下痢止めは腸管の運動を無理やり止めるので、毒素を腸にとどめることになります。素人考えでのむと症状は悪化します。

 抗菌薬は有効というエビデンスはなく、世界ではむしろ無意味で有害とされています。菌を破壊するタイプの抗菌薬は、中にいる毒素が出て、かえって蔓延(まんえん)させるという考えです。

 一方、日本では治療中にほかの感染症にかかるのを防ぐため、菌を壊さず増殖を止めるタイプの抗菌薬を使う場合があります。

 ――治療法は。

 腎不全だけなら人工透析を、貧血や血小板減少がひどい場合は輸血します。しばらくは絶食し、毒素が体から出るのを待ちます。脳に毒素が回って脳浮腫になった場合は、浮腫を軽減する薬を使うこともありますが、あまり効果は期待できません。人工呼吸器をつけるぐらいです。つまりは対症療法です。

 ――後遺症は。

 脳障害がでることがあります。あと長く続くのは腎臓の障害です。例えば4、5歳でHUSになって、腎臓に障害を受け、機能が2、3割落ちた状態で回復したとします。子どものうちはそれでも十分に老廃物を濾過(ろか)できるのですが、成長すると濾過しなければならない老廃物の量も増えて、機能が追いつかなくなり腎不全が進行していく人もいます。また腎臓の血管が壊されて狭くなった結果、成人になってから高血圧になる人もいます。

写真・図版

 このようにHUSの治療は対症療法で、後遺症が残る場合もあります。大切なのはEHECによる食中毒にならないこと。肉はきちんと火を通し、野菜もよく洗う。血液が出てくるような下痢になったら、すぐに医療機関を受診しましょう。

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<アピタル:患者を生きる・食べる>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・水戸部六美)