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 東京・渋谷のITベンチャー社長から、地方のJクラブ職員に。昨年5月に転身したJ2栃木の江藤美帆マーケティング戦略部長(46)は、そんな異例の経歴を持つ。ツイッターのフォロワーは4万人以上で、インターネット上で影響力を持つ「インフルエンサー」としても知られる。人件費をかけずに、SNSを駆使して集客を図る。

 職歴は華やかだ。米国の南フロリダ大を卒業し、マイクロソフト本社、グーグル日本法人、ウェブメディア編集長などを経験した。2016年からは、スマートフォンで撮影した写真を売買できるサービス「スナップマート」の代表取締役を務めた。立ち上げから関わった事業を軌道に乗せて一区切りつけた後、サッカー業界に興味を持った。

スタジアムの観戦環境を改善

 もともとJ2千葉のサポーターで、栃木の求人を知り、応募した。給料は半分以下となっても、迷いはなかった。栃木の年間予算は6億5千万円(17年度)で、J2平均の14億1千万を大きく下回る。運営も未熟なところにひかれた。「あるものを回すのではなく、仕組みから考えたい。スナップマートも構想から形にした。栃木はできて10年経つクラブですけど、スタートアップみたいにできるかな、と」。転職の動機をこう説明する。

 チケットやグッズ、飲食など個人への営業を主に担う。そのほか、スタジアムのトイレ掃除から芝の張り替え交渉まで仕事は多岐にわたる。「私に期待されているデジタル市場までたどり着けていない」と笑いながらも、手は打っている。

 利用するのは「お金と人手をかけずに、経営にインパクトを与えられる」というSNSだ。一方通行の広告PRとして使う日本企業が多いなかで、江藤部長は「いいところは双方向性」と指摘する。サポーターの声を拾い上げて、還元する手段とする。

 クラブの公式ツイッターのプロフィルには「ご要望やご意見は #栃木SC をつけてツイートしていただければ、拝見して運営の参考にいたします」と加えた。ハッシュタグ「#栃木SC」との検索ワードが付いた投稿は7倍に増えて、1週間で300件ほどになった。反応をもとに、敵地側のゴール裏にもおむつ交換台を設置するなど地道な改善策につなげている。

選手には投稿法をアドバイス

 「選手のSNSは栃木が持つ一つのメディア」ととらえる。選手には昨年10月にSNS講習会を開いた。肖像権の侵害など禁止事項を徹底するとともに、投稿が炎上しづらいインスタグラムの活用を推奨した。

 「SNS広告ではいかに宣伝色を薄めるか。リアルな生の声が一番効果がある」。クラブの公式ツイッターで新商品を告知するよりも、選手の言葉で薦める方が販売促進力は高い。「選手1人ではたいしたことなくても、20人が『応援して』と言えば、大きい」。いまや日本人選手の7割がSNSを使うようになった。選手は食事に行った店を紹介するなど地域貢献も意識するようになった。

 サポーターにも積極的な投稿を呼びかける。「スタジアムグルメがおいしいとツイートし、写真を上げてくれるだけで、クラブの貢献になっているんです」と力を込める。

 「J1に上がりたい。そのために県内での認知を上げて集客したい」。昨季の1試合平均観客数は5657人。5年後の目標として、1万人を掲げる。(吉田純哉)

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〈J2栃木〉 1953年に発足した栃木教員サッカークラブが前身。2009年からJ2に参入。J1に昇格したことはまだない。16、17年はJ3で戦い、昨季はJ2で17位だった。選手は元日本代表FW大黒将志らがいる。