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 「ちーちゃん、来たよ」。岩手県陸前高田市の小島(おじま)幸久さん(47)は11日午前10時半、レインコートを着て市内の墓を訪ね、手を合わせた。

 長女千空(ちひろ)ちゃん(当時7)はアニメ「プリキュア」が大好きだった。人付き合いが広かった妻紀子さん(同38)、仕事で信頼が厚かった両親。共に暮らしていた家族4人は震災から7日後、車の中から遺体で見つかった。自身は消防団の避難誘導で一緒にいることができなかった。全員を抱きしめて、泣いた。

 震災から100日目、避難所から仮設住宅に移るのとほぼ同時に、家族で経営していた電器店を仮店舗で再開した。千空ちゃんが残したキティちゃんの花柄のリュックを手に、仕事場と一人暮らしの仮設住宅を往復する日々。働かないと不安だった。でも何のために稼ぐのかわからない。「愛する誰かのために生きてえ」。毎日、家族のことを思った。

 2015年10月、亡き母の知人の紹介で出会ったさちこさん(40)と再婚した。家族をいっぺんに失う「特別な経験」をした自分を自然に受け入れてくれる人柄にひかれた。翌年11月、長男の空大(そらた)ちゃんが生まれた。名前には、千空ちゃんから1文字もらった。

 毎朝、2歳になった空大ちゃんをひざの上に乗せて仏壇に向かう。手に持たせた線香に火をつける。合わせた小さな手に上から重ねて一緒に合掌。最近は、声をかけなくても、空大ちゃんから駆け寄ってくるようになった。

 まだ震災のことをわからない空大ちゃんには「ちーちゃんはお姉さんだよ」と教えている。空大ちゃんは、お風呂でお気に入りの金魚のおもちゃに「ちーちゃん」。食事中に「ちーちゃん!」と声を上げることもある。「不思議。千空が近くに来てるんだなって思う」

 電器店は2年前に自宅兼店舗として再建した。仕事も軌道に乗り、今年の元日は震災後初めて、離れて暮らすきょうだい家族を招き、自宅でしゃぶしゃぶをした。酔っ払ってあまり覚えていないけど、楽しかった。

 あれから8年。今年は千空ちゃんが中学を卒業するはずだった年だ。空大ちゃんはまだ2歳。もっと仕事を安定させ、空大ちゃんが望めば継いでいけるような店にしたい。「空大が二十歳になる時、俺は66とか65とかの年。まだまだこれからだ」

 千空ちゃんのリュックはいま、仏壇のある部屋の壁にかけてある。習ったばかりのひらがなで「ぺとぼとろ」「のおと」と、持ち物を書いた千空ちゃんのメモと、知り合いがくれた千空ちゃんの20枚の写真はいつも持ち歩いている。

 新しい家族3人での墓参り。お墓では「今までと同じように、これからも空から見守ってください」と声をかけた。8年前、たった一人になった。今年は隣に家族がいる。「いい人に出会わせてもらって、感謝してる。きっと4人が見守ってくれているからかな」(野津彩子)