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 風邪をひいたかなと思って近所の病院へ行き、薬をもらってのんでいたにもかかわらず、熱が下がらない。そのうちに足が痛くなって、別の病院へ行ったけれども痛みが治まらない。そうしているうちに高熱が出て、大きな病院で採血、胸部X線写真、心臓超音波検査を受けたら「感染性心内膜炎です」と言われた。

 その後、大学病院を紹介され、心臓弁膜を人工弁に取り換える手術を受けることになった。ところが、明日は手術という日になって今度は頭が痛くなり、頭部CT検査を受けたところ、脳梗塞(こうそく)が見つかった。検査を進めるうちに脳動脈瘤(りゅう)が見つかり、先に脳神経外科で脳動脈瘤に対する開頭手術を受けることになった。心臓の手術はその1カ月後のことだった――。

 これは、私たちが実際に経験した患者さんの診療経過です。

 感染性心内膜炎は心臓にある弁膜(逆流防止弁)や心内膜(心臓の中の膜組織)や大血管内膜にばい菌がついたことで様々な病気を引き起こす感染症です。

 虫歯や歯周病がこの感染症に関係していることがわかってきました。歯の根元は骨に通じており、血流が豊富なところです。虫歯が進むと口腔(こうくう)細菌が血液の中に入り込みやすい状況がつくられるのです。また、歯を抜くなどの歯科治療をした後に起こりやすいと言われています。

 歯科処置を受ける時にはあらかじめ、抗生剤を内服したほうがよいと言われている人たちがいます。先天性心疾患を持っている患者さんや治療のために心臓に人工弁を取り付けている人たちです。歯科治療を受ける際には、心臓の持病や治療歴について、いま一度主治医に確認してみてください。

 では、冒頭で紹介した患者さんのような症状がどうして現れるのか、一つひとつ説明しましょう。

 僧帽弁(=左心房と左心室の間にある逆流防止弁)や大動脈弁(=左心室と大動脈の間にある逆流防止弁)に細菌がつくと、そこで菌のかたまりをつくります。細菌感染ですので、高熱が出ます。

 菌のかたまりの一部が血液の流れによって太ももの筋肉へ飛んで行くと、筋肉への血流が途絶えて、痛みを生じます。脊椎(せきつい)や腰の筋肉内でうみをつくる場合もあり、その時には背部痛や腰痛を引き起こします。これらが痛みの原因です。

 菌のかたまりが脳へ飛んで小さな血管に引っかかると、その場所で脳梗塞を起こします。また、菌が動脈を侵すと動脈はもろくなり動脈瘤を形成します。

 このように、感染性心内膜炎は様々な症状を全身で引き起こすのです。

 治療は原則として抗生剤の投与です。病気の原因になっている細菌に効果のある適切な抗生剤を選択するために、感染を専門とするチームから助言してもらいます。

 しかし、抗生剤が効かなかったり、呼吸困難などの心不全症状が出てきたり、脳梗塞をはじめとする全身の塞栓症が出てきた時には外科的な手術が必要となります。

 外科手術をスムーズに進めるためには循環器内科医から外科医への橋渡しを円滑に行う必要があります。冒頭で示したように、脳神経外科医の関与が必要となることがあります。手術は感染部分を取り除き、人工弁に取り換える手術や弁の形成術を行います。

 手術では、麻酔科や術後管理を行う集中治療医、手術室看護師、臨床工学技士らによるチーム医療が重要となります。弘前大学医学部付属病院では重症患者さんでも治療できるよう、様々な診療科と連携して感染性心内膜炎の治療に当たっています。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学医学部付属病院医療安全推進室長 大徳和之)