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金正男暗殺を追う 第3部

【第三章】なぜ逃げない?捜査員も困惑

 「新しい髪形で、かわいく映りたい」。フォンは事件前夜、ホテルのロビーでハサミを借り、自ら髪の毛を切っていた。正男氏を襲うことになる翌日が「撮影本番」だと北朝鮮の男から聞かされていたからだった。

 事件当日、北朝鮮の男が持ち出したのは、異臭を放つ「黄色みがかったベタベタの液体」だった。液体を目に塗られた正男氏が、直後から血を吐き、意識を失う一方で、なぜ液体を素手で扱ったフォンには健康被害が出なかったのか。液体の鑑定にあたった化学者が、その理由を証言した。

 フォンは事件の2日後、現場に戻ってきたところを逮捕された。パスポートも航空チケットも持っていなかった。犯行時に着ていた服は、ホテルにそのまま残されていた。逃げ隠れせず、証拠隠滅も図らない。その不可解にも見える行動の裏には、真相解明につながる手がかりが眠っていた。

直前まで「おめかし」

 事件前日の2017年2月12日、フォンは空港近くのホテルにチェックインした。ホテルの外壁はオレンジと白のペンキで塗られていて、よく目立った。宿泊料は1泊2千円ほどと手頃だった。

 捜査資料によると、フォンはホテルにチェックインした後、ロビーでハサミを借りた。自室に戻って鏡を見ながら、茶髪を肩までの長さに切りそろえた。フォンは「新しいヘアスタイルにして、かわいく映りたかった」という。カメラマン役のミスターYから「13日の撮影はとても重要」と予告されていたためだ。

 手持ちの美容器具で、毛先をカ…

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