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 病院の集中治療室(ICU)などで重症患者を診療する医療スタッフに、テレビ会議システムを活用して遠くにいるベテラン専門医が助言する「遠隔ICU」。集中治療の専門医である中西智之さん(42)が、遠隔ICUを生かした効率の良い医療を提供する会社を兵庫県芦屋市に設立し、普及に取り組んでいる。

 遠隔ICUは米国が先進地。インターネットにつながった端末で病院側と専門医がやり取りし、患者の急変に対応する。診療の質の向上や医師の長時間労働の改善につながると期待されているが、国内の導入例は少ない。

 集中治療の専門医は、脳外科など特定分野に特化したスペシャリストではなく、あらゆる症状に幅広く対応する知識を持ったゼネラリスト。中西さんは日本集中治療医学会が認めた専門医だ。集中治療のほか、麻酔と救急の専門医でもある。

 2016年10月、友人の医師と資金を出し合い、遠隔ICUを手がける「T―ICU」を設立。社長に就任した。千葉県柏市の病院と契約を結び、18年6月から実際にサービスを提供している。知り合いの医師や看護師約20人に協力してもらい、24時間態勢でシフトを組み、病院を支援する。

 医師らが詰める拠点は大阪市中央区にあるマンションの一室だが、自宅待機も認めている。医師らは専用のタブレット端末を持っており、病院側とやり取りする。必要に応じて心電図や電子カルテも表示され、病院のスタッフが専門外などで対応できない場合にアドバイスする。

 これまで敗血症になった患者に投与すべき薬の種類や量を教えたり、警告音が鳴り続ける人工呼吸器の不具合を指摘したりした。現在、千葉のほかに大阪市鶴見区の病院とも契約を結ぶ。さらに複数の病院から問い合わせが来ており、契約先は増えそうだという。

 兵庫県出身の中西さんは、京都府立医科大を卒業して心臓血管外科の医師になった。やりがいはあったが、長時間労働で心が休まる日が少なく、家庭を大切にしたいとの思いから麻酔科医に転じた。東京の病院で集中治療の部署を経験し、集中治療医が果たす役割の大きさを実感して専門医を目指した。

 専門医になった後、フリーの医師として全国の病院で非常勤として働いた。集中治療の専門医は少なく、都市部に偏る傾向があった。日本の医療に集中治療をもっと充実させるにはどうしたらいいのかと考えるようになった。

 ある日、知人の医師から米国の遠隔ICUの話を聞き、日本にも必要だと「びびっときた」。重症患者の診療を遠隔から支援できれば、担当医が院内に拘束される時間も減るはず。これと決めたら行動は早い性格。半年後に起業した。

 社長を務めながら週数日は病院で非常勤医師として働く。中西さんは「遠隔ICUは患者、医師の双方にメリットのあるシステム。会社は赤字だが、必ず普及するとの信念でパイオニアとして頑張りたい」と意気込んでいる。(吉村治彦)