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 山岳気象予報士の第一人者で、登山家としても知られる猪熊隆之さん=長野県茅野市在住=が、「空の百名山」を提唱しています。山で空を見ることは、夕焼けなどの美しい景色に出会えるだけでなく、雲や風の動きを観察し、天候の変化を予測して安全な登山につなげるとても大切な行動です。今回の「山へ行こう」は、空の観察に適した山を、猪熊さんが独自の視点で選ぶ「空の百名山」について、ご本人に説明してもらいます。

 「観天望気(かんてんぼうき)」と呼ばれる、雲や風の変化から一日程度先までの天気を予想する技術があります。天気予報がなかった時代や精度が低かった時代に農業や航海の際に使われてきた、もっとも原始的な天気の予想技術です。

 実は、この技術は天気予報の精度が非常に高くなった現代においても役に立ちます。特に、登山においては、気象状況の変化をいち早く察知するための有効な手段となります。

 私は仕事柄、過去数十年に発生した気象遭難について調査してきました。その結果、改めて認識させられたのが、観天望気の重要性です。特に、最近増加傾向にある局地的な豪雨や落雷による事故を防ぐには、観天望気の技術が欠かせません。

 約半世紀前、1967年8月に北アルプス・西穂高岳独標付近で発生した松本深志高校の落雷事故を始め、2012年と16年のいずれもゴールデンウィーク中に発生した北アルプスにおける遭難事故の際にも、前兆となる雲や風の変化が報告されています。観天望気は空を見て雲の種類や変化を「目」で見ること、風の変化や空気の湿り具合を「肌」で感じることなど、私たちの五感を使う技術です。

 従って、道具を使う必要も、お金を払う必要もないものです。誰でもいつでも、自由に無料で(!)使えるものです。これを使わない手はありません。

 一つだけ有効な道具があるとすれば、「スマートフォン」あるいは「カメラ」です。雲を撮影し、記録することで、そのときはどのような天気をもたらす雲か分からなくても、後で調べることができます。また、一定間隔で撮影した静止画をつなぎ合わせて動画にする「タイムラプス撮影」の機能は、雲が地形の影響で変化する様子や、天候が悪化するとき、逆に良くなるときの変化を見ることができるので、観天望気の勉強をするのに非常に役立ちます。

 観天望気を学ぶには、空が広く開けた場所が適しています。それは星や天体の観測と同様です。また、高い山や海に近い山は雲の変化が現れやすく、地形による違いがイメージしやすいのです。私は、登山中に観天望気を学ぶ講座をこれまでに100回近く実施してきました。その経験から、どの山が空を見るのに適しているのかなどを踏まえ、「夕焼け雲や朝焼けが美しい山」「ブロッケン現象など光学現象が見られやすい山」など観察にふさわしい山を、筆者の独断で100山を厳選します。

 すでに北アルプスを中心に二十数座を選んでいます。今春、「空の百名山プロジェクト」を立ち上げます。全国各地を回り、地元山岳関係者らの意見なども参考にして、百座を選んでいくというものです。その際、山小屋などの施設で、「山岳気象講座」などのイベントも実施する予定です。

 空を見上げることは、登山リスクを減らすとともに、山に登る楽しみが一つ増えることにもなります。

 このプロジェクトを通じて、皆様が空に興味を持っていただき、雲や風から天候悪化の前兆を読み取って、安全な登山につなげる一つのきっかけになれば嬉しいです。また、山小屋や山頂で皆様にお会いできることを楽しみにしています。

 猪熊隆之(いのくまたかゆき) 1970年生まれ。新潟県村上市出身。全国18山域59山の山頂の天気予報(https://i.yamatenki.co.jp/別ウインドウで開きます)を運営する国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン(長野県茅野市)の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。茅野市縄文ふるさと大使。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チベットのチョムカンリやエベレスト西稜(りょう)、北アルプス・剱岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀(とうはん)歴がある。著書に「山の天気にだまされるな!」「山岳気象大全」(山と渓谷社)、「山岳気象予報士で恩返し」(三五館)。共著に「山の天気リスクマネジメント」(山と渓谷社)、「安全登山の基礎知識」(スキージャーナル)、「登山の科学」(洋泉社)。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。