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 患者の皆さんにとって、最大の関心事は治療を受けることで病気が治ることだと思います。私たち医療者も同じ思いで治療を行っています。

 弘前大学医学部付属病院では、胸の真ん中にある胸骨という骨を縦に切って心臓に到達する「開心術」と呼ばれる心臓の手術を年間約200件行っています。2時間で終わる手術から10時間以上もかかる手術まで様々です。

 心臓は胸の真ん中にある臓器で、前方は胸骨という硬い骨で覆われています。胸骨の上には脂肪組織と皮膚があります。心臓の手術をするためには、まずこれらの皮膚、脂肪組織、胸骨を縦に切り開く必要があります。

 心筋保護液という特殊な液体を心臓に入れると心臓は動きを止めます。心臓の手術は心臓の動きを止めて行うことがほとんどで、心臓を止めている間は人工心肺装置を使用します。人工心肺とは、心臓へ流入する大静脈から血液を抜き、人工の肺で動脈血に変え、大動脈へ血液を送り込む装置です。人工心肺の使用によって体は大きなダメージを受けます。人工心肺装置が通常とは違う血液の流れを生み出すからで、これによって体の免疫力が低下すると言われています。

 また、場合によっては人工弁などの人工物が心臓の中に入ることになりますので、開心術は滅菌状態を保った、最も清潔な手術を心掛けなければなりません。

 手術をしたところに細菌が感染することを「手術部位感染」と言います。手術の傷が赤くなったり、皮膚からうみが出てきたり、場合によっては高熱が出たりします。皮膚の表面だけが細菌感染を起こした場合には、よく洗って治療を行います。消毒薬をゴシゴシこすりつけることはありません。

 心臓のまわりや胸骨が感染を起こすと大変です。細菌を取るための再手術が必要になるからです。しかも、心臓や胸骨に細菌感染が起こると、一度の手術では小さな細菌まではなかなかとれません。

 最近では持続陰圧吸引療法という治療を行っています。スポンジのようなものを心臓と胸骨の間に置き、強い陰圧をかけて持続的にスポンジを通して細菌を吸い込むようにします。そうすることで、傷の治りが早くなることが期待できます。

 この治療は週に2回、全身麻酔をかけてスポンジの交換を行わなければならず、患者さんにとってはたいへん大きな負担になります。しかしながら、この治療のおかげで細菌感染による死亡を格段に減らすことができました。

 私たちは手術部位感染が起きないよう様々な工夫をしています。

 まず、術前に体毛をそる範囲は胸の前面だけにするなど、最低限にとどめています。昔は全身の毛をそっていましたが、それはかえって良くないこととわかっています。皮膚を傷つけないよう、医療用の専用の機械を用いて行います。

 また、手術の前日には患者さんに必ず入浴してもらいます。これも皮膚を清潔に保つために必要なことです。

 心臓に限らず手術では、抗菌薬を執刀前に一度、予防的に点滴投与します。さらに、手術中は3時間ごと、手術後は8時間ごとに投与することで、血中の抗菌薬の濃度を一定に保つようにしています。予防的抗菌薬投与ですので、過剰に投与することはなく、投与期間は2日と限定しています。執刀前には、イソジンうがい薬と同じ成分のポピドンヨードを手術部位に塗ります。消毒薬が乾燥すると殺菌効果が完成します。

 体温が下がると体の免疫力が下がるため、手術中は体温が下がらないように麻酔科医や医療スタッフが管理を行います。手術台に備えつけた患者さんを温める装置を駆動させたり、場合によっては手術室内の空調設備を使用し室温を32度まで上げたりします。

 血糖が高いと細菌感染を起こしやすいと言われています。糖尿病の患者さんについては、手術前から厳格な血糖コントロールを内科に依頼し、手術後も厳密に血糖を管理しています。様々な処置をすることで、手術部位感染が起こらないように努めています。

 

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学医学部付属病院医療安全推進室長 大徳和之)