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 講演を終えると座長が会場に向かって「何か質問は?」と言う。大抵は何もない。「では私から一つ」、と座長が恒例で言って会は終わる。

 先日の岡山での会、珍しく会場から手が上がった。看護や介護の実践の場に身を置く人たちから現実的な質問で、例えば、「入所者の方の看取(みと)りが近くなった時、どの時点でご家族さまを呼べばよいのか。早過ぎると叱られるし」、など。続いて、「いい看護師、いいケアって何ですか?」と問われた。不意を喰(く)らった。美辞麗句を並べても大抵バレるし、もともと美辞麗句は苦手。「よしっ、この患者さんと家族、引き受けよう!と思って下さる人、その気合」と答えたものの、すぐに反対意見が自分の中に生まれた。純粋過ぎて、思い込み過ぎて、疲れて辞めると元も子もない。「そばにいる、がまず一番ですね」と微妙な軌道修正を。

 そうなのだ。患者さんが病室に1人、「お茶、ひと口」と言った時に、その横に立っている人がいる、それがケアの原点だと思う。

 帰りの列車で考え直した。一番は、やはり技術だ。この技術の収得こそプロフェッショナル。二番は声の高さ、大きさ。やさしい声がいい。声は裸で全てを伝える。次は手。やさしい手がいい、いや力強く持ち上げないといけない手もあるな。次は、現場を捉え、その状況を全体の流れの中でキャッチする力。その人の脚本を読み取り、作っていく力。それからそれから、先方がこの人なら話してもいいと思える人柄を持っていること。

 考えるときりがない。でも、一番の一番は、「細やかな気遣い」かな。枕の大きさ、布団の重さ、寝衣のシワ、眼脂や口唇の乾き、花瓶の力ない花などに気付くこと。そんな人は技術を含め、ケアの世界を自分の中に作っていく。

<アピタル:野の花あったか話>

http://www.asahi.com/apital/column/nonohana/(アピタル・徳永進)

アピタル・徳永進

アピタル・徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師

1948年鳥取市生まれ。京都大学医学部卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始め、さまざまな死の形を臨床から報告。鳥取市にセミナーハウス「こぶし館」を建築し26年になる。