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 クラシックの本場、欧州の歌劇場を中心に活躍する指揮者の大野和士さん(59)。新国立劇場オペラ部門の芸術監督に就任し、海外進出を視野にいれた新作オペラ「紫苑(しおん)物語」を手がけた。このたび、「日本の未来を語ろう」をコンセプトに、平成世代の若い世代が作ったコミュニティー「朝日新聞DIALOG(ダイアログ)」のメンバー2人が、大野さんと鼎談(ていだん)した。難民支援のNPOを率いる渡部清花(さやか)さん(27)、家族を取り巻くより良い環境をつくるために起業した新居日南恵(におりひなえ)さん(24)に、大野さんが伝えたメッセージとは。

〈おおの・かずし〉 1960年東京都生まれ。ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)音楽監督、仏国立リヨン歌劇場首席指揮者などを歴任し、世界を舞台に活躍。

 渡部 「紫苑物語」を見ました。まったく異質な四つの思いがひとつのハーモニーへと束ねられてゆく四重唱に、魂が震えました。日本に逃れてきた難民で、シリアで舞台をつくってきた友人の「芸術は国境を超える」という言葉を思い出しました。

 大野 四重唱はオペラならではの形式。4人がそれぞれに違う言葉でしゃべり始めたら、演劇の場合はカオスになる。でも、音楽ではそれが可能。四者四様、違う旋律、言葉、リズムで歌う。早口の人もいれば、なだらかにしゃべる人もいる。恨み、愛、絶望など、様々な感情の淵にいる人たちが一体となる。それは、オペラでしかできないこと。「紫苑物語」はそれぞれのキャラクターの個性が非常に強い。だからこそ、四重唱が可能になる。各キャラクターのエッセンスが四重唱にこめられているので、それぞれ個別にではなく、全体の響きで聞いてもらえたらいい。没個性的なものが四つ重なっても、そうした多面体にはならない。一人ひとりが特別に豊かなオリジナリティーを持ったキャラクターでなければ、交わらないんです。では、どうやって国境を超えるか。いろいろな経験に裏打ちされた「個」があれば、どこに行っても自分の「個」とそうでないものとの区別、差別化ができる。自分とは違う人がいると、感受性や考え方など色々な違いが、当然生じるわけです。けれど、それをしっかりと見極められる逆の個、つまり元の個があるということ。それがとても大切だと思いますね。

〈わたなべ・さやか〉 浜松市生まれ。NGOの駐在員などとしてバングラデシュで活動。日本に逃れた難民申請者らを支えるNPO法人「WELgee」代表。

 渡部 企業も社会も簡単にダイバーシティー(多様性)と強調する時代ですけど、「個」を確立し、認め合うことが大切なんですね。

 大野 「個」はエゴイズムとは違う。「紫苑物語」では妄執にもとづく究極のエゴイズムが描かれていますが、今の時代だって、常に「自分を残す」ということが行為の目的になってしまっている人が後を絶たないでしょう。行き場がないがゆえに、自己を消失し、テロのような必然性のない攻撃に向かうこともある。自己を規定する過程をうまく過ごせれば、対話が可能となる「他者」が生まれるんです。「他者」が見えると、それが鏡となり、自分をよく定義できるようになる。リディファインというんですかね。

 200年近く前、「第九」を作曲していたベートーベンは、「自分の名を後世に残す」というエゴの妄執からは離れていた。エゴが忘れ去られて初めて、はるか天空から聞こえてくる声がベートーベンに第九を書かせたんです。エゴの欲求を満たすだけの行為からは対話も生じないし、未来も築けない。

 私の場合はそれは、レパートリ…

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