[PR]

 国の名勝・奈良公園(奈良市)にホテルは必要か。7日投開票の奈良県知事選は、インバウンドを見すえた観光振興が争点の一つだ。4選をめざす現職がホテル整備を進める一方、新顔2人は「待った」をかける。背景には、奈良が抱える課題がある。奈良で観光しても泊まらない――。

 「通過型観光から滞在型観光に。バラエティーに富んだ立派なホテルがいる」

 告示日の3月21日、無所属現職の荒井正吾(しょうご)氏(74)が出陣式で訴えた。自民県連、国民県連、公明県本部の推薦を受ける。

 国や県によると、2017年の外国人観光客は過去最多の209万人だった。一方、県内のホテルや旅館の客室数は9197室で全国最下位。宿泊者も265万人で、最下位の徳島県に次ぐ46位だ。電車で1時間もかからない大阪や京都に泊まる観光客が多い。

 荒井氏は07年の初当選以来、ホテル整備を進める。平城宮跡の近くに来年春にできる米国の高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」は、県が県有地を売って誘致した。さらに総事業費220億円を投じ、周りにコンベンションセンターやバスセンターをつくる。

 今回争点になっているのが、奈良公園の南端付近にある約1・3ヘクタールの県有地だ。かつて志賀直哉ら文人が集まった実業家の邸宅があったが、今では大正期の荒れた庭園だけが残る。

 県は11年度、この県有地をホテルにする計画を明らかにした。16年には市街化調整区域だった予定地を、都市公園法にもとづいてホテルが建てられる県立都市公園に編入。文化財保護法にもとづく文化庁の許可も17年に得た。

 住民の一部は「豊かな自然を壊すな」と反発し、16年に「奈良公園の環境を守る会」を結成。アウトドア用品大手モンベルの辰野勇会長が代表に就き、建設中止や見直しを求める約4万4千人分の署名を集めた。昨年12月、建設差し止めを求め、奈良地裁に提訴した。周辺にはホテルがあり、「特に必要と認められる場合」に限って宿泊施設の建設を認める都市公園法に違反すると主張する。

 「リゾートホテル 建設反対」。こんな横断幕が張られるなか、今年2月中旬、工事が始まった。事業者は県の公募で決まった東京の大手不動産ヒューリック。設計には建築家の隈(くま)研吾さんの事務所が加わり、2階建て30室を予定する。ホテルの名称は「奈良ふふ(仮)」で、来年春のオープンをめざす。県は19年度予算に5億6千万円を盛り込み、実業家の邸宅にあった庭園や茶室を再現する。

 一方、県は奈良公園の別の県有地でも同じようなホテル計画を進める。ホテルの誘致やパーティー会場の整備を東京の不動産開発大手の森トラストが担う。

 奈良市以外の自治体でもホテル進出が相次ぎ、22年度までに県内の客室数は1300室増える見込みだ。

 こうした荒井氏の計画を批判するのが無所属新顔の2人だ。

 04年から2期12年、旧民主党の参院議員を務め、16年の参院選で敗れた無所属新顔の前川清成(きよしげ)氏(56)は「奈良県にホテルがいらないとは思わない。でも自然豊かな奈良公園につくる必要はない」。ハコモノより、子育て支援や公立高校の耐震化に予算をあてるべきだと主張する。「奈良公園の環境を守る会」と3月に政策協定を結んだ。

 無所属新顔で医師の川島実氏(44)は「奈良県の観光に客寄せのハコモノはいらない。すばらしい歴史と自然の魅力があふれている」と訴える。

 住民の意見も割れる。奈良市の中心商店街で飲食店を営む男性(40)は「昼間は観光客がいっぱいでも夜はいない。ホテルが増えないとどうしようもない」と理解を示す。

 一方、奈良市の元大学教員の女性(74)は言う。「遠方の友人も、奈良には変わらないものを求めている。モダンなホテルはいらない。観光客は大阪や京都に泊まればいい」(加治隼人)