【動画】屋外喫煙所から出る煙に困る人たち=高橋大作撮影

皆さんの身近な困りごとや疑問をSNSで募集中。「#N4U」取材班が深掘りします。

 「駅前を通ると、屋外喫煙所から、たばこの煙が流れてくる。健康への影響が心配です」。読者の疑問や困りごとを募って取材する「#ニュース4U」取材班に、たばこを吸わない男性からLINEで投稿があった。「子どもに煙を吸わせたくない」と、屋外喫煙所を気にする子育て中の親も少なくない。一方、「煙は空気で薄められる。気にしすぎだ」という声もある。屋内での受動喫煙対策に注目が集まるが、屋外はどう考えればいいのか。

ベビーカーの女性、猛ダッシュ

 「そういえば三ノ宮にあるよね」。投稿を読んだ記者がミナト・神戸の中心部、JR三ノ宮駅に行ってみた。午後2時、塀で囲まれた6畳ほどの屋外喫煙所で20人ほどがたばこを吸っていた。

 その横を胸に子どもを抱いた30代の女性が、ベビーカーを押しながら猛ダッシュ。「子どもにできるだけ煙を吸わせたくない。早くこの場を離れたい」。女性は息を切らして話した。

 「毎朝、苦痛です」。投稿をしてくれた50代の男性会社員も屋外喫煙所からの煙に悩んでいた。男性が通勤で使うのは大阪府北部のベッドタウン、高槻市のJR高槻駅。一緒に男性の通勤ルートをたどってみると、高架の下から煙のにおいが漂ってきた。

 のぞいてみると、透明な塀で囲まれた屋外喫煙所で3人の男女がたばこを吸っていた。「毎朝ここを通らざるを得ない。近くのバス停でバスを待つ15分ほどの間もずっと心配なんです」

喫煙者「白い目で見られる時が」

 屋外喫煙所を使う喫煙者はどう感じているのか。

 「嫌な人は近づかなければいい。こっちは決められた場所で吸っている」

 「たばこに対して、あまりにも不寛容。吸う場所がどんどん減っていく」

 ただ、複雑な思いを抱く喫煙者も少なくないようだ。30代の会社員は「直接文句は言われませんが、透明な塀の向こうから白い目で見られる時があります」。60代のタクシードライバーは「作るんやったらもうちょっとちゃんと作らんと。においが全部抜けてるもん」。

屋外の受動喫煙、JTの見解は

 他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙。屋内ではなくて、屋外にある喫煙所の場合は健康への影響をどう考えたらいいのか。

 日本たばこ産業(JT)大阪支社を訪ねてみた。広報担当者は「(屋外喫煙所から流れてくる煙と)非喫煙者の疾病との関連性は確認されていません」と説明した。屋外喫煙所だけではなく、屋内の喫煙についても「因果関係は完全には証明されていない」というのがJTの立場だという。

JT「空気中で薄められている」

 根拠は何か。ホームページでは、2003年に出されたイギリスの医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載された研究論文の「環境中たばこ煙への曝露(ばくろ)と虚血性心疾患および肺がんとの関連性は、一般的に考えられているものよりかなり弱いと思われる」という部分などを引用。

 「環境中たばこ煙(喫煙者がはき出す煙と、たばこの先から出る煙が空気中で拡散されたもの)は、空気中で拡散し、薄められているので、喫煙者が吸い込む煙中の成分の量と比べると、非喫煙者が吸い込む量は極めて少ないものです。動物で発がん性を評価する試験においても、環境中のたばこ煙により、腫瘍(しゅよう)を発生させることは極めて困難です」としている。

 ただ、担当者は「たばこを吸わない人にとっては、煙は不快感を生じさせることもある。吸う人も吸わない人も心地よい環境を守るため、配慮は当然必要。吸う人がマナーを守れる環境を作るためにも『分煙』に力を入れている」と話す。

 JTは04年から、自治体や企業から屋内外の喫煙所の整備に関する相談を受けたり、コンサルティングをしたりしてきた。その数は年々増加していて、15年以降は年間3千件を超える。

 自治体関係者などによると、JTが喫煙所の設備にかかる費用を負担することもあって、「灰皿を設置するだけだと数万円。四方を塀で囲むタイプの喫煙所だと数百万円、JT側が出すこともある」という。

識者「肺がんなどのリスク高める」

 今度は、受動喫煙に詳しい産業医科大学(福岡県北九州市)の大和浩教授(59)を訪ねた。大和教授は「受動喫煙が肺がんや心筋梗塞(こうそく)などのリスクを高めることは、世界の研究によって明らか」と話す。

 大和教授は「屋外であっても、風下であれば、一時的とはいえ、『望まない受動喫煙』が発生する」と話す。大和教授の実験では、屋外の喫煙所から25メートル離れた風下の地点でも、たばこの煙に含まれる微粒子(PM2・5)が、1立方メートルあたり100から200マイクログラムという高い濃度で検出された。環境省が定めた大気汚染の目安となる環境基準(35マイクログラム/1日平均)よりはるかに高い。

 喫煙所のそばではもっと高い値が検出され、健康への悪影響が懸念されるため、「建物や人の動線から十分に距離をとるなどの対策が取れないなら、屋外でも喫煙コーナーを作るべきではない」という。

食い違う主張、厚労省に聞くと…

 それでは、国はどういう立場なのか。たばこの健康への影響を所管する厚生労働省に行ってみた。

 担当者は、03年に世界保健機関(WHO)の総会で採択された「たばこ規制枠組条約」を示した。第8条に「締約国は、たばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていることを認識する」とある。「日本はこの条約を04年に批准している。受動喫煙による健康被害は明らかだ、というのが政府の見解です」

 屋外喫煙所の場合はどうか。屋外は、天候などで日々条件が変わるため、長期間にわたる科学的なデータが得にくく、屋外での受動喫煙により病気になる人がどれだけ増えるかの証明が難しいという。

 ただ、担当者はこう強調した。「JTの『受動喫煙の健康影響は必ずしも科学的に明らかになっていないので、受動喫煙は迷惑・気配り・マナーの問題だ』という主張は承知していますが、採用することはできない。国際的な状況を見ても、受動喫煙は他者の健康に悪影響があるという前提で対策をとる」

ポイ捨て防止か、受動喫煙防止か

 とはいえ、これまでの屋外の喫煙所の設置については自治体に任され、ばらつきがあるのが実情のようだ。

 投稿者が住む大阪府高槻市。市によると、駅前の屋外喫煙所は「ポイ捨てと歩きたばこをなくすことが目的」で設置したという。

 市は13年にまちの美化を推進する条例を改正し、同年4月からJR高槻駅前の一部などを「路上喫煙禁止区域」に指定。すると、喫煙者から、「たばこが吸える場所を作って」という意見が毎月数件寄せられた。JTが全額負担し、駅前に屋外喫煙所を設置したという。「屋外の喫煙所を増やすことになれば、吸わない人の迷惑にならないようにしていきたい」

駅から半径250mを完全禁煙に

 一方、「東京都立川市では駅前の喫煙所が撤去された」という情報が取材班のツイッターに寄せられた。

 取材すると、16年7月にJR立川駅から半径250メートルの屋外などで、市が設置した屋外喫煙所が全て撤去されていた。市によると、喫煙者から大きな反発があった。

 撤去のきっかけは清水庄平市長の指示だった。撤去後、たばこのポイ捨ては増えた。また、路地裏の私有地の喫煙スペースに無断で人が集まり、「隠れ喫煙所」となっている例もある。担当者は「喫煙者と非喫煙者の共存を目指しているが、ベストな方法は見つかっていない」と語る。

「両立できるのか」悩む自治体

 京都府亀岡市もまた、頭を抱える。昨年6月、路上喫煙を規制する条例を制定。今年1月からJR亀岡駅など計5駅の周辺を路上喫煙禁止区域とし、7月以降は違反者から千円の過料を徴収する。

 市によると、喫煙所は「ポイ捨て防止から受動喫煙防止のための施設だと発想を切り替えたうえで、吸う人と吸わない人の両方の立場を考えた」という。これまでの囲いがないスタンド灰皿を先月撤去。屋根と壁が付いた密閉型の喫煙所の設置を決めた。整備の予算は400万円。市は「約5億円のたばこ税収入もあることから、妥当な金額だと判断した」とするが、発表後、「高額過ぎる」との批判が市に寄せられた。市の担当者は「吸う人、吸わない人両方の市民の意見はどうすれば両立できるのか。正直、国が決めてくれた方が楽です」と漏らした。

禁煙エリア、吸ったら罰則

 屋外喫煙所からの受動喫煙対策について、国も少しずつ動き出している。屋内の原則禁煙を定めた法律、改正健康増進法が昨年7月に成立した。禁煙エリアで喫煙した者に最大30万円の過料が科されるなどの罰則もある。

 この法律では学校や病院などの子どもや患者への配慮が必要な施設については、屋外も含めて敷地内禁煙を原則とすると明記。また、駅前などの屋外についても、喫煙を行う場合は周囲の状況に配慮するよう定めている。

 これを受けて、厚労省は昨年11月、駅前などに屋外喫煙所を作るときに、煙が容易に漏れないように配慮するべき仕様などを全国に通知した。天井が開放されたパーティション型では、煙が直接漏れないよう、出入り口にクランクを付ける。出入り口付近の地面より高い位置に設置するなどとしている。

「コンテナ型」に特別交付税も

 昨年度からは、こうした対策がなされた喫煙所を自治体が設置する場合には、国が整備にかかる費用(最大250万円まで)を特別交付税として措置することを決めた。愛知県豊田市に1月に設置されたコンテナ型の喫煙所などが昨年度の措置の対象となった。

 厚労省の担当者は「現実に日本には1900万人近く喫煙者がいる。リスクを承知した上で喫煙する自由は保障されている」としたうえで、条件を満たした屋外喫煙所が広がれば、望まない受動喫煙はなくなっていくと説明。「改正健康増進法が全面施行される来年以降、受動喫煙に対する配慮は屋外であっても厳しくなる。時間はかかるかもしれないが、既存施設の更新時期などに合わせ、屋外喫煙所も徐々に良くなるのではないかと考えている」としている。

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改正健康増進法による規制

【動画】いちから解説!受動喫煙規制法案が成立 どこが禁煙?喫煙可?

・屋外や家庭などでは「周囲の状況に配慮」(2019年1月24日施行)

・学校や病院、行政機関などでは敷地内は原則禁煙(19年7月1日施行)

・事務所、ホテル、大規模な飲食店、新規出店する飲食店などは原則屋内禁煙。経営判断により喫煙可とする場合は、喫煙専用室などを設置し、喫煙可能であると掲示しなければならない(20年4月1日施行)

・経営規模の小さな既存の飲食店は、経過措置として、店内で喫煙可能であることを掲示すれば喫煙可(同)

・シガーバーなど喫煙を主目的とする施設は施設内で喫煙可能(同)

《罰則》

 禁煙エリアへ灰皿などを設置した施設管理者に最大50万円の過料。禁煙エリアで喫煙した者には最大30万円の過料。違反が発覚した場合、都道府県知事などから指導が行われ、従わない悪質なケースの場合、勧告や命令などを経て、罰則が適用される。

たばこと健康をめぐる動き

1970年 世界保健機関(WHO)の総会でたばこと健康に関する最初の決議

  84年 大手百貨店の食堂に禁煙席が設けられる

  88年 世界禁煙デーが設けられる

2003年 日本で健康増進法施行。受動喫煙対策は努力義務

  04年 日本がたばこ規制枠組条約を批准

  08年 全国でICカード(taspo)方式の成人識別たばこ自動販売機が稼働

  10年 神奈川県で全国初の受動喫煙防止条例が施行

  16年 厚生労働省の研究チームが日本における受動喫煙が原因の死者は年間1万5千人を超えるという推計を発表

2018年 改正健康増進法可決

 ※厚労省のホームページなどから

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