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【アピタル+】患者を生きる・食べる「意識障害」(食の支援)

 意識障害がある患者には胃ろうなどで栄養を摂取することが多くなります。一方で少しずつ訓練し、口から食べられるようになる例も報告されています。意識障害がある患者の看護を担当してきた筑波大学の紙屋克子名誉教授に、食の支援について聞きました。

――意識障害がある人の経口摂取の現状は。

 意識障害がある患者は、男性も女性も子どもから高齢の人までいて、その理由も先天性のものから、交通事故や脳血管障害などの病気と様々です。また意識障害の程度もそれぞれ違います。意識障害があり、経管栄養に頼っている場合、経口摂取を試みることは誤嚥(ごえん)性肺炎の危険があるので、消極的な医療関係者がいることは事実です。一方で、100%とは断言できませんが、潜在的には口から食べることができる患者もいます。

写真・図版

遷延性意識障害
「全国遷延性意識障害者・家族の会」によると、原因は頭部外傷や低酸素脳症、脳血管障害が多く、在宅で療養している人が大半を占めるという。主な介護者は母親や配偶者。同会の2014年の調査では、栄養の摂取方法は、「胃ろうのみ」が6割近く、「経口摂取と胃ろう」は約2割、「経口摂取のみ」は約1割だった。

 ――意識障害の患者の食支援を始めたきっかけは。

 看護師になったばかりだった1970年ごろ、脳腫瘍で意識障害になった若い男性を担当しました。男性は経管流動食で栄養をとることになりましたが、男性の妻から「家族の一員としてどう受け止めればいいのかわからない。せめてアイスクリームをスプーン1杯でも食べて笑ってくれれば」と言われたことが始まりでした。

 よく観察すると、人は1日に1・5リットルほどの唾液(だえき)が出ますが、そんなにも吸引していないことに気がつきました。多くをのみ込んでいるということなので、嚥下(えんげ)する力があるということです。いろいろ試すなかで、試みれば食べられることがすぐにわかりました。また、水は簡単ではないけど、アイスクリームなど溶けるものは食べやすい。食べるときの姿勢を健康な人と同じようにすることが重要だということにも気づきました。

――注意点は。

 安全な姿勢と、誤嚥しにくい食べ物を選ぶことが重要です。姿勢には医療関係者によって考え方の違いもありますが、私の場合、座位は90度、もしくは軽い前傾姿勢に保ち、足を床につける方法を主に採り入れてきました。ただし、誤嚥の危険性もあります。嚥下(えんげ)の能力はどれぐらいか、食べるのに関わる筋肉のどの部分が動きにくいのかは人によって異なります。経口摂取を試す場合は、まず医療関係者が状態をよく観察しながらすることが重要だと思います。

 ――経口摂取をする意義は。

 「口から食べる」ということは、喜びにつながる生活の行為の一つです。それを目標にすることで、患者が座位になる必要があったり、目を覚ました状態でないといけなかったりして、その過程で患者の様々な能力を引き上げることにつながります。

 食べるということは生活リズムの柱になります。食事を補助する家族にも、食べた内容が話題になる楽しみなど、介護者にもメリットが大きい面もあります。結果として、うまくいかなかったとしても、家族の精神的支援の一つとしての意義も大きいと感じています。

 

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<アピタル:患者を生きる・食べる>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・合田禄)