【動画】西日本豪雨被害から復旧が進む山口県周南市の小成川集落=三沢敦撮影
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 昨年7月の西日本豪雨による土石流で女性が命を落とした山口県周南市樋口の小成川(こなるかわ)集落。災害の発生から9カ月が経つが、住民の不安は消えない。集落を離れる人が増え、過疎化がさらに進んだためだ。市長選の告示が14日に迫る中、被災地の今を見つめた。

 春の日差しが降り注ぐ山あい。ウグイスのさえずりが聞こえる。一帯を埋め尽くしていた流木や岩石、押しつぶされた民家のがれきはほぼ撤去され、シバザクラが見頃を迎えていた。

 土石流が発生した裏山では重機がうなりを上げる。県が今年度末に完成をめざす砂防ダムの建設工事だ。

 「ものすごい高さのダムができる。土砂が押し寄せても全部そこでせき止めてくれるから、そりゃ安心だ」。500メートルにわたって山肌がむき出しになった裏山を見つめ、吉浦正男さん(73)が話した。

 災害直後、記録的な酷暑の中で、吉浦さんは近くに住む河村繁さん(78)と2人で重機を操縦していた。市が当初、民有地に流れ込んだがれきなどは原則として所有者が撤去するとの考えを示していたためだ。

 家族や家屋を失った住民にそんな余裕はない。被災を免れた2人は自家用の重機を運び込み、汗だくで撤去作業に追われた。市が公費での撤去に踏み切ったのはしばらく経ってからだ。

 「孤軍奮闘」だったあのころから9カ月。集落の復旧は大きく進み、新たな災害への備えも充実しつつある。

 市はこの4月、同規模の自治体では全国初という「防災情報収集伝達システム」を稼働させた。防災対策室の大型パネルに河川の水位や雨量などの情報を集約。防災行政無線やコミュニティーFMなどで住民に速やかに伝える仕組みだ。

 西日本豪雨で市は災害対策本部の設置を見送り、小成川に避難勧告を出さなかったことで批判を浴びた。市の担当者は「システムの導入で、より的確な判断ができる」と自信をみせる。

 だが、どんなに防災対策が進んでも、吉浦さんは「小成川が元の姿に戻ることはない」と感じている。

 被災前、21世帯が暮らしていた集落は今、14世帯に。家を失って県営住宅に移ったり、福祉施設に入ったりした人に加え、「怖いから」と親類宅に身を寄せたままの人もいる。

 咲き誇るシバザクラは、「小成川が見物客でにぎわうようになれば」と住民の一人が数年前から植え始めた。その住民も家屋が押しつぶされ、ここから去っていった。

 「花が残っても、人が残らなければどうしようもない。今回の災害で過疎化のスピードが一気に増した。あと10年もしたら、ここに人はいなくなるじゃろう」と河村さんは嘆く。

 拡充する災害対策とは裏腹に先細る集落の絆――。政治はどんな手をさしのべられるのだろうか。

 吉浦さんが言った。

 「自分の身は自分で守らないといけないが、また起きたらと思うと、不安は尽きない」(三沢敦)