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 ちょっと古い話ですが、小さなお子さんを連れたお母さんが外来にやってきました。診察はともかく、「子どもにインフルエンザの検査をしてほしい」というのです。

 お子さんが通園している保育園で、「インフルエンザではないこと」を確認してもらうように言われたというのです。本当にそう言われたかどうかわかりませんが、正直なところ困惑しました。インフルエンザでは、すぐに結果が出る簡易検査が普及しています。鼻の奥やのどを綿棒でこすって診断キットと反応させると、赤い線が浮かび出てウイルスの存在を知らせてくれます。この簡便さが、このような単刀直入な要求につながるのでしょう。

 さて、ここからが面倒な話です。

 大体、世の中で人間が作ったものに100%確実というものはありません。私たちが診断で用いる検査の性能を表す指標としてよく使われるものに、「感度」と「特異度」があります。

 「A」という病気を診断する「T」という検査があると仮定しましょう。病気Aに実際にかかっている人たちが検査Tを受けて、病気にかかっていることを示す「陽性」という結果が出る確率を、疾患Aに対する検査Tの「感度」と呼びます。「特異度」は、病気Aにかかっていない人たちが検査Tを受けて、病気にかかっていないことを示す「陰性」という結果が出る確率のことです。

 具体的に言うと、Aという病気にかかっている100人を対象に検査Tを行い、100人が陽性という結果になれば、検査Tの感度は100%です。もし40人しか陽性にならなければ感度は40%です。また、病気Aにかかっていない100人を対象に検査Tを行い、100人が陰性という結果になれば、検査Tの特異度は100%、40人が陽性(=偽陽性)という結果になってしまったら、特異度は60%です。

 これらの指標をもとに、インフルエンザの迅速診断の性能を見てみましょう。メーカーの資料によると、インフルエンザの迅速診断の感度は大体90%、特異度は95%程度です。実際は検査条件など様々な要素が絡みますので、今、便宜的に感度80%、特異度90%と仮定しましょう。

 では、自分がインフルエンザ流行期に診療をしている医師だと思ってください。今日、インフルエンザのような症状を訴える患者が100人受診しました。この100人中、本物のインフルエンザ患者は80人、あとの20人はインフルエンザ以外の感染症というのが正解と仮定します。

 この100人全員に感度80%、特異度90%のインフルエンザ迅速診断をしたら、検査で陽性になるのは80人の80%で64人、そしてインフルエンザではない20人のうち90%が陰性になるので18人は陰性、2人は検査では陽性でも実際にインフルエンザにかかっていない偽陽性です。検査の結果は66人が陽性、34人が陰性となります。実際にインフルエンザにかかっているのは80人ですから、そのうち正しく陽性という結果が出るのは64人で、残り16人は陰性となります。陰性という結果が出た34人の中には16人(47%)ものインフルエンザ患者が含まれていることになります。

 では、インフルエンザの流行初期はどうでしょう。100人受診中、本物のインフルエンザ患者は10人、残りの90人はほかの病気と仮定しましょう。この100人に対して同じように検査をすると、本物のインフルエンザ患者10人のうち正しく陽性という結果が出るのは8人です。残りのインフルエンザではない90人中、10%に当たる9人は偽陽性になります。つまり、陽性という検査結果が出る人は「8人+9人」で17人。そのうち半分以上の9人は偽陽性ですから、インフルエンザではないということになります。

 さあ、どうでしょう。長々と書いてきましたが、検査の陽性、陰性のみによる判断が万能ではないことをお分かりいただけたでしょうか。医師による患者さんの身体所見や流行状況などによる総合的判断が重要なのです。最後に、インフルエンザの発症1日目の迅速検査の感度は50~60%くらいにとどまることも付け加えておきます。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之)