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 重大な刑事事件の裁判に市民が加わる裁判員制度がスタートして、5月で10年を迎える。裁判員を経験した約9万人の中に、あるべき判決をともに考え抜き、人生が変わった2人がいる。

 2014年1月。東京地裁の法廷にオウム真理教の平田信(まこと)・元幹部(54)が現れた。17年近く逃亡を続けた末に出頭し、公証役場事務長・仮谷清志さん(当時68)拉致や宗教学者の元自宅マンション爆破など、3事件で起訴された。

 法壇の加毛(かも)誠さん(36)は身が引き締まった。隣に座ったのは会社員の女性(33)。「仮谷さんが亡くなったことはいつ知りましたか」「爆発の時、どう感じましたか」――。2人は競うように質問を重ねた。

 2日間に及んだ井上嘉浩・元死刑囚=昨年7月に執行=の証人尋問。最後に女性は「被告に言いたいことはありますか」と率直に聞いた。「必ず生きて社会に戻れる方ですから、二度と事件を起こさないよう、できる限り尽くしてほしい」。井上元死刑囚は声を震わせて答えた。

 懲役12年の求刑に対し、女性が「みんなで考えて考えて、考え抜いた」という判決は懲役9年だった。

 加毛さんは、個人的に女性を食事に誘うようになった。井上元死刑囚の最後の言葉を引き出すなどした人間力に、いつしかひかれていた。15年秋、4度目の挑戦で司法試験に合格して弁護士に。16年1月、2人は結婚した。

 裁判員裁判を通して犯罪を身近なものとして考えることが、事件のない社会につながる――。思いを共有する夫婦は時折、当時を振り返るという。(阿部峻介)