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 中国・四国9県で唯一、ラグビーワールドカップ(W杯)の公認キャンプ地に選ばれた山口県長門市。古くから湯治場として知られる「俵山温泉」に、カナダ代表が最終調整に訪れる予定だ。過疎化や高齢化が進むこの温泉街で、盛り上げに一役買おうと立ち上がったのが元行政マン。二つのアイデアを胸に秘める。

 日本海に面する市中心部から車で約30分。ひっそりとした山間部に木造の旅館が立ち並び、レトロな風情が漂う。俵山温泉のある俵山地区だ。人口はピーク時の7割減の約990人。65歳以上の高齢化率は5割を超える。平日は温泉街を出歩く観光客もまばらだ。

 そんな温泉街に4月21日、元気な笑い声が響いた。W杯開幕までの残り日数、152枚の連だこを揚げるイベント。連だこは長さ約250メートルで、カナダへの応援メッセージや国旗などで出来ている。書いたのは地元の俵山小学校の15人。集まった約70人が歓声をあげた。イベントの仕掛け人は、俵山公民館長の宍村(ししむら)龍夫さん(67)。「キャンプに向けて弾みがついた」と話す。

 宍村さんは俵山地区の出身。高校卒業後に市役所に入り、定年退職後の2013年に公民館長に就いた。

 ラグビーW杯では、地域を盛り上げたいと使命感を燃やす。そのアイデアの一つが、2015年に山口県で開催された「ねんりんピック」の経験だ。

 60歳以上の高齢者を中心としたこの大会では、俵山地区がラグビーの試合会場になった。当時、約500人の選手を歓迎のため待ち受けたのが、約70人の地域住民ら。道路脇に立って選手が乗ったバスが通るたびに手を振った。

 ただ、70人だとやや寂しい。「人がいないのなら」と、宍村さんらの発案で、事前に手作りしたかかし約90体を沿道に並べ、一緒に出迎えた。「バスの中の選手たちも窓越しに手を振り返してくれて好評だった」。ラグビーW杯でも、温かく出迎える策を練る。

 もう一つのアイデアは、国旗。宍村さんの次女の住むデンマークでの体験が役立った。

 現地では、祝日や記念日でなくても、街の店先や玄関先にデンマーク国旗が掲げられていた。次女の誕生日には、お祝いの気持ちを込めて、近所の人が国旗を掲げてくれた。国旗に対する愛着を強く感じた。

 「遠い外国に行ったとき、自分の国旗が飾ってあったらうれしいだろうなって、ひらめいたんです」。バス停や公共施設など、これまで飾り付けたカナダの国旗は約200枚。さらに増やしていく予定だ。

 おもてなしのお手本は、2002年のサッカーW杯日韓大会で、カメルーン代表が合宿した大分県中津江村(現・日田市)。村民と選手たちの心温まる交流は全国的に話題になった。市職員時代、中津江村を訪れた宍村さん。地域の盛り上がりを直接、体感した。「山の中の何もない地域だったけど、どこでも、やればできるじゃないか」。そう確信した。

 「派手な企画は出来ないけど、ラグビーW杯は俵山をアピールする大きなチャンス。面白くなきゃね」。宍村さんは笑った。(藤野隆晃)