[PR]

 大型連休が始まり、本格的な登山シーズンが到来しました。この時期は例年、北アルプスなどの人気山域は、大勢の登山者でにぎわいます。今回は、長野県や岐阜県などの「山岳県」が安全対策のために「登山条例」で義務づけている登山計画書(登山届)について考えてみたいと思います。そもそも、個人の趣味であり、自由であるべき登山に、なぜ行政側から規制がかけられているのでしょうか?

記入を通じて、地形や気象条件を把握

 高校や大学の山岳部や社会人山岳会などの組織に所属している登山者にとっては、登山計画書は登山の基本ともいえるものです。しかし、こうした組織に所属せず、「独学」で山登りを始めた登山者にとっては、ひょっとしたら「登山に欠かせない準備」ととらえられていないかもしれません。ガイドブックや地図だけを頼りに、登山をする恐ろしさも実感していないのかもしれません。

 登山は、他のスポーツと違って死につながる遭難の危険をはらんでいます。危険な岩場での転・滑落や悪天候での低体温症など、自然相手のため、万全な準備と心構えが必要となります。

 各県とも、条例が求める登山計画書の内容は、①登山者の氏名②登山期間・ルート③装備、食料――などです。岐阜県や新潟県は、無届けや虚偽の届け出をした登山者には、5万円以下の過料などの罰則規定を設けています。登山計画書の記入を通じて、登る山の地形や気象条件を把握し、自分の体力に見合った山を選ぶことは遭難防止につながります。登山計画書の作成には、そうしたことを考える機会になる、という意味があります。

遭難時の救助活動に活用

 しかし、登山計画書のより大きな意義は、遭難した場合に「迅速な救助活動に役立つ」ことだと私は考えます。2014年9月、御嶽山(3067メートル)の噴火災害では、発生6日目にふもとの長野県木曽町の原隆副町長が「行方不明者の全体像がわからない」と困惑した表情で会見しました。

 死者・行方不明者63人のうち、登山届を出していたのは11人でした。安否確認に手間取り、遭難者の救助活動も困難を極めました。

 御嶽山の噴火災害以降、登山計画書の重要性が再認識され、長野県、新潟県、山梨県が相次いで登山条例を制定。岐阜県は、北アルプスの危険地区に限っていた対象エリアに、活火山の焼岳や御嶽山、白山を追加しました。

 登山計画書は、自作することも可能ですが、登山口などに置かれた用紙に必要事項を記入しての提出も認められています。受け付け方法も登山口の登山ポストだけでなく、ネットやFAXで事前に送ることもできます。

 長野県での17年度の登山計画書の届け出件数は、20万3868件。前年度を21・7%上回りました。登山者全体に、安全登山への意識が高まっていることがうかがえます。

計画書はネットで入手、提出が可能

 では、登山計画書はどう書けばいいのでしょうか。具体例として、北アルプスの人気コースとして知られる穂高連峰に入山するケースを紹介します。

 穂高連峰は、北アルプス最高峰の奥穂高岳(3190メートル)などのピークが連なる長野・岐阜県にまたがる大きな山塊です。しかし、岩場が連続し、技術・体力とも他の山に登る場合と比べて、細心の注意や準備が必要です。登山ルートは、多彩で初心者から上級者まで、登山者の実力にあったルートを選べます。

 長野県では、「長野県標準様式」として、登山計画書を登山者に提供しています。ネットで入手し、ネットで提出できます。

 この登山計画書では、「目的山域」として、「北アルプス」「中央アルプス」「南アルプス」「八ケ岳」「奥秩父」「その他の山域」にチェックを入れます。次に、「主な山域の名称」には、奥穂高岳や西穂高岳などを書き込みます。

 続いて、パーティーのメンバーを書き込む欄には、氏名や性別、年齢、緊急連絡先などを書き込みます。所属する山岳団体があれば、単独登山の場合も記入してください。さらに、入山日と下山日を記入。最も大切なのは、行動予定です。入山日から毎日の行動予定(ルート)を詳しく書いてください。

 最後に、装備品のチェック欄があります。岩場が多い穂高連峰では最近、縦走の場合でもヘルメットが必需品です。落石や転倒、滑落などで、頭部を保護するヘルメットは命を守ることにもつながるからです。食料や飲料水は必ず予備を持っていく必要があります。このリストは、これだけあれば大丈夫だというリストではありません。事前に経験者からのアドバイスやガイドブックなどを参考にして、「その他の装備品」に持参する装備を書き込んでください。

 長野県では、この登山計画書に書かれた個人情報は、山岳遭難発生時の救助・捜索活動のために利用するだけなので、正確に記入してください。他の都道府県でも、個人情報については、同様の扱いとなります。

 もちろん、登山計画書を作成し、自治体に提出するだけでは遭難防止には直結しません。ふだんからトレーニングを心掛け、登山に臨んで下さい。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。