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 湿疹と強いかゆみが出る、子どものアトピー性皮膚炎の治療に悩んでいる親は多い。その中には「ステロイドは怖い」と薬を使わずに治そうとして「脱ステロイド」と呼ぶ人もいる。SNSのインスタグラムで拡散用のハッシュタグがついた「#脱ステ」を検索すると、多くの投稿がヒットする。ステロイドの塗り薬は危険なのか? 国立成育医療研究センターの医師で日本アレルギー学会の理事も務める斎藤博久さんに、アトピー治療とステロイドとの付き合い方を聞いた。

 アトピー性皮膚炎は、顔や背中などの皮膚に左右同じように炎症や湿疹が出て、かゆみのある病気だ。家族にアレルギーの人がいたり、アレルギーに関わる抗体をつくりやすい体質があったりして発病すると考えられている。斎藤さんは「食事、ダニやほこり、ストレスや汗・汚れなど、さまざまな因子がアトピーの症状に影響する。環境が変わって治るケースもある」と指摘する。

 2002年の厚生労働科学研究による全国調査では、アトピーの有症率は4カ月の赤ちゃんで12.8%、1歳6カ月で9.8%、3歳で13.2%だった。

 アトピー患者の皮膚は、一番外側にある「角層」のバリアー機能が低下している。細胞の間を埋める脂が足りなかったり、水分を保つ物質が減ったりしていて、アレルギーを引き起こす物質が入りやすくなっている。その刺激で免疫細胞が集まってきて炎症を起こし、かゆみを感じる神経が伸びて、かゆみを感じやすくなっている。

 治療の柱のひとつがステロイドを中心とした薬物治療だ。ステロイドには炎症をおさえる働きがある。まず炎症をなくして皮膚をきれいにし、皮膚のバリアーを取り戻していく。

「中途半端にやめない」ことが大事

 炎症のある皮膚にステロイドをぬると、数日でつるつるした肌になるが、「中途半端にやめない」ことが大事だ。一見きれいになっていても、皮膚の下では炎症の「火種」が残っているからだ。

 治まってすぐステロイドをやめると、また皮膚の炎症が再燃してしまう。斎藤さんは「例えば1カ月間アトピーの湿疹に悩んだら、1カ月間は火種が残っていると考えられる」と話す。

 現在はステロイドを使った「プロアクティブ療法」が治療の主流になっている。湿疹がおさまってもすぐにステロイドをやめずに塗り続ける。その後、例えば3日間ステロイドを塗り、1日は保湿剤だけを塗り、3日ステロイドを塗って…といったサイクルを3回繰り返す。次は「2日ステロイド・1日保湿剤」を3回繰り返す。こうして患者の重症度にあわせてステロイドの間隔をあけていき、最終的には薬を使わず、保湿剤を塗るだけで済むような状態を目指す。

 もともとステロイドは体内でつくられるホルモンを薬にしたものだ。ステロイドの効果や安全性の科学的根拠(エビデンス)のレベルは高い。

 だが、1990年代、テレビ番組で「ステロイドは悪魔の薬」と表現されたことがきっかけで、「怖い薬」という誤解が広まったという。ステロイドの飲み薬は副作用に注意が必要だが、これが塗り薬でも起こると誤解されたのではないかと推測されている。

 当時、アレルギーの治療で有名な国立病院機構相模原病院(神奈川県相模原市)で働いていた斎藤さんは「ひとり30分ほど同じ説明を繰り返して、ステロイドへの恐怖感を取り除くのが大変だった」と振り返る。

 「近頃は重症のアトピー患者さんが減ったという印象だったけれど、もともと忌避感のある人は診察に来ていないのかもしれない」

乾燥する前に保湿剤 スキンケアも大切

 薬の塗り方には注意が必要だ。穴が5ミリのチューブから、人さし指の第一関節にのせた量が0.5グラム。これで手のひら2枚分を塗ることができる。

 炎症が起きている皮膚はでこぼこしているため、薄く塗り込まずに湿疹をおおうように乗せるのがポイントだ。塗り立てはべとつくが、5分ほどすると落ち着く。重症の子は、ステロイドの正しい塗り方を学んだり塗る習慣をつけたりするため、親が付き添って入院するケースもあるという。

 ステロイドの薬剤の強さは5段階あり、症状と、皮膚の薄い部位(顔や陰部など)かどうかで決める。作用の最も強い薬(ストロンゲスト)はほとんど使われず、ステロイドを塗らない方がいい目の周りは、タクロリムス軟膏(なんこう)が使われることもある。

 薬物治療のほかに、食生活・生活習慣を整えたり、スキンケアに取り組んだりすることも大切だ。せっけんをよく泡立てて、アトピーを悪化させる黄色ブドウ球菌を洗い流し、乾燥する前に保湿剤を塗る。早期にステロイドを中止することにも役立つ。

 ただ、医師が部位と症状に合わせて適切な量と強さのステロイド剤を細やかに処方し、塗り方を詳しく説明するには時間がかかる。斎藤さんは「ただ薬を渡されただけでは、中途半端に塗ってつらい思いをしてしまう患者さんがいるかもしれない。医療者側も、しっかり説明して理解してもらうことが大切だ」と話す。

 アレルギー学会の検索機能(https://www.jsaweb.jp/modules/ninteilist_general/別ウインドウで開きます)で、アトピー治療に詳しい小児科・皮膚科の専門医を検索するのも有用だ。

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さいとう・ひろひさ 国立成育医療研究センター・研究所長補佐。免疫疾患、感染症やアレルギー疾患の研究管理を担当。日本アレルギー学会理事を務め、週1回、新橋アレルギーリウマチクリニックで外来診療をしている。(水野梓)