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 美術館の軌跡、役割、これからの可能性。開館30周年の節目にあわせて、これらをコレクションや資料、新作インスタレーションを通して表現した特別展「美術館の七燈(しちとう)」が、広島市現代美術館で開かれている。全館を使って、この館ならではの歩みをたどりつつ、普遍的な課題も浮かび上がらせた。「いま、ここ」に限らない、広がりのある展示になっている。

 1989年5月、公立館としては国内で初めて、現代美術を専門とする美術館として開館した。展覧会タイトルは、19世紀英国の美術評論家、ジョン・ラスキンの著書「建築の七燈」にちなんでいる。建築に必要な観念を七つの灯(あか)りになぞらえたこの本のように、七つの章立てで美術館の活動を見つめている。

 たとえば「観客」の章では、来場者が願いを短冊に書いて木につるすオノ・ヨーコの参加型作品「ウィッシュ・ツリー」や、人の死に関連した新聞記事をもとにした北山善夫のドローイング(会期中のワークショップ参加者による絵や文も含む)を展示。美術館建築に着目した章では、黒川紀章による広島市現代美術館のためのドローイングのほか、同じく黒川が手がけた国立新美術館、和歌山県立近代美術館の資料も並べた。

 平和への貢献をたたえる「ヒロシマ賞」受賞作家の作品や、広島にまつわる作品など、コレクションを通じて館独自の活動も紹介。一方、「残すこと」と題した章では、収集と保存という他の美術館にも共通する役割や課題に目を向けた。

 たとえば「ビデオアートの父」と称されるナムジュン・パイクの「ヒロシマ・マトリックス」には、ブラウン管テレビが使われているが、今では修理用の部品の入手も難しく、作品をどう保存していくかが議論されている。また、会場の一角では、吉原治良作品の公開修復も行っている。

 そして、デザインユニット又又(マタマタ)による展示と、田村友一郎のインスタレーションは、今展のための新作だ。又又は、美術館の準備室ができてから現在に至るまでの歩みを、資料や作品で紹介する展示室の構成とデザインを担当。リサーチをもとに自由な想像で独自の物語を立ち上げてきた田村は、30年前の開館日に館内の公衆電話から電話をかける女性たちの写真を起点に、うそのような本当のような男女の物語を紡ぎ出している。

 美術館は、来秋から大規模な改修工事に入り、22年度にリニューアルオープンする予定。松岡剛・主任学芸員は「単に30年を振り返るのではなく、今だからこそ見えてくるものがある。どういう考えのもと美術館ができて、どういう考えのもとに続けていくのか。リニューアルを前に、考えるきっかけになれば」と話す。

 5月26日まで。月曜休館(4月29日と5月6日は開館し、翌7日休館)。一般1200円など(3日の開館記念日は無料)。美術館(082・264・1121)。(松本紗知)