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 午前4時半。オレンジ色の常夜灯がともる部屋に、赤ちゃんの泣き声が響く。保育士の田中悠さん(27)が抱きかかえ、用意していた哺乳瓶のミルクを飲ませた。その泣き声につられたように泣き出す子、歩き回る子の姿も。目が覚めて寝付けない子は田中さんがおぶってあやした。

 うえだみなみ乳児院(上田市)では4月中旬現在、0~3歳の子ども8人が暮らす。このうち、ミルクを飲むのは5人。それぞれ約4時間おきに飲ませるようにしている。明け方はミルクを飲みたくて泣き出す子や目が覚めてしまう子らがいる一方、保育士は1人だけ。田中さんは「5人のミルクの時間がかぶらないように調整しています。本当は子どもたちのタイミングで飲ませてあげたいけど……、これが限界です」。

 子どもたちが乳児院で暮らす理由はさまざまだ。親の経済的困窮や親との死別、虐待など。昼間は少なくとも2~3人の保育士や看護師が面倒を見て、午前0~7時半の間は1人で見る。子どもたちにとっては、時間で担当者が替わることになる。

 丸山充院長(49)はこうした育て方について、「本当にこれでいいのか」と感じてきた。「子ども一人ひとりに割ける時間が短い。本来は1対1の関係をつくり、愛情を注いだ方が良いはずだ」。夜中に目覚めた子は、保育士の姿を探して歩き回ることもある。「家だったら、目が覚めても隣にお父さんやお母さんがいるから安心して寝られる。私たちはどんなに頑張っても親の代わりにはなれない」

 転機は2016年。丸山院長が、児童精神科医の上鹿渡(かみかど)和宏・長野大学教授(現・早稲田大学教授)の講演を聴いたことだった。

 上鹿渡教授は、海外では里親の元で育てる割合が、日本よりも高いと説明。家庭で育てた方が心身の発達にも良いとする研究結果が海外にはあるとし、「施設から家庭への転換を、一緒にやる人はいませんか」と呼びかけた。

 この年、国は児童福祉法を改正し、施設ではなく家庭での育ちを優先する方針を打ち出した。ただ乳児院の多くは民間の経営。子どもが減れば、国などが出す運営費の減少にもつながる。また施設で育てる方が子どもには良いと考える人もおり、上鹿渡教授の提案は容易には受け入れがたいとも言える内容だった。だが、丸山院長は手を挙げた。

 上鹿渡教授のアドバイスのもと、たどり着いたのは、乳児院が独自に里親を養成する事業だった。養子縁組と違い、里親なら実の親と子どもの親子関係は切れることはない。丸山院長は「実の親と里親。子どもにとって選択肢は多い方が良い。実の親も、最初は育てられないと思っていても次第に考えが変わることもある」と説明する。

 里親になるには県の認定が必要で、どの乳児院のどの子を、どの里親に預けるかは県が決める。ただ、うえだみなみ乳児院ではこれに加え、独自の研修などを行って、乳児院としても里親と認定する仕組みを作った。認定された里親は「フォスターホーム(FH)」と呼ばれ、うえだみなみ乳児院から手厚い支援を受けられるという。

 17年6月、FH募集のチラシを上田市内で配り始めると、18年3月までに約60件の問い合わせがあった。18年度には佐久市や東御市、坂城町など東信の8市町村に拡大。面接や家庭訪問、研修などを経て、18年8月、第1号のFHが誕生した。

 4月中旬。FHになることを希…

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