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 「今から養蜂の体験を始めていきます」。防護服を着た参加者がそろりと蜂箱に近づく。養蜂業を営む「松治郎の舗(みせ)」の水谷俊介社長(51)が約8千匹のミツバチがすみかとする箱に煙をかけ、巣を持ち上げた。ハチがぶんぶん飛び交うなかで「こんな間近でミツバチを見ることないですよね」と言うと、参加者からは「すげえ」という声が上がった。

 伊勢神宮の内宮前にある「おかげ横丁」から徒歩数分のところに今年3月、古民家を改装した養蜂体験カフェを開業した。カフェ(20席)に蜂場(約70平方メートル)を併設し、ハチの生態を学びながらハチの巣から蜜を搾ることができる。10分(大人1200円、小中学生600円)と40分(大人3500円、小中学生1500円)の2コースあり、いずれも搾った蜜は持ち帰れる。愛知県の会社に勤める同僚2人と訪れたアラスト・アミルレザさん(29)は「観光地にあるからデートでも来られる」とうれしそうだ。

 近隣に広大な神宮林があり、サクラやアカシア、クロガネモチなどハチが花粉を集める植物が豊富だ。ハチは日が昇ると半径2キロ範囲で活動する、ハチが一生で集められるハチミツはティースプーン1杯分、攻撃しなければ刺してこないなど水谷さんが参加者に説明していく。ハチミツがたっぷりついた蜜ろうを削ると「スーパーでは絶対売っていないですよ」と参加者の手に乗せる。「うまっ」という反応が返ってきた。

 ハチの巣を遠心分離機にかけると琥珀(こはく)色に輝くとろりとしたハチミツが出てきた。カフェでハニートーストやハニー抹茶ティラミスなどにかけて搾りたてを味わうこともできる。

 松治郎の舗は三重・長野両県に計40カ所の養蜂場を構える。開花やハチにとっての適温を求めて毎年3月から8月中旬ごろまで蜂箱300個を移動させる。ハチミツの生産量は年平均12~14トン。天候の影響を受けるため、480キロと不作の年もあるという。ハチミツ販売のほか、イチゴなど授粉作業が必要な農家に花粉交配用としてハチの貸し出しもしている。

 水谷さんは1995年に大手メーカーを辞めて家業に入った。当時は国産ハチミツの認知度は低く、産地や種類にこだわる消費者も少なかった。価格は中国産の5倍もしたため、値下げして売りさばくことが続いていた。「続けるだけバカみたいで辞めていく同業が相次いだ」。農林水産省の調べによると、85年に7225トンあった国産ハチミツの生産量は2017年に2827トンとなり6割も減っている。一方で消費量は4万5627トン(17年)あり、9割以上を輸入に頼っている。

 「養蜂業への新規参入を増やしたい」。ハチに興味を持ってもらうことが第一歩と考え、約2千万円を投じて体験型カフェを開いた。1日平均3組の申し込みがある。来年には養蜂を教える学校をつくるつもりだ。(細見るい)

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〈松治郎の舗(みせ)〉三重県松阪市。1990年に水谷さんの両親がハチミツ専門店を開業、99年に法人化した。ハチミツへのかかわりは祖先が現在の桑名市で養蜂業を始めた12(大正元)年にさかのぼる。養蜂のほか「はちみつ玉せっけん」や「はちみつ最中(もなか)アイス」など独自商品も開発。従業員は16人(2018年12月)。