写真・図版

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「ところで、キミ」

 と、芳子が愛想よく、

「お茶のおかわりをいただけるかな。呼鈴(よびりん)が壊れてるみたいだから、召使を探しにいってくれたまえ」

 麗奈が「あら、まぁ! 皇女さまってずいぶん人使いが荒いのね」と明るく笑うと、広間を出ていった。

 芳子はそれを見送るなり、ソファからひらりと敏捷(びんしょう)に飛び降りた。「ぜったいダメ、なんて言われちゃ、よけい気になっちまうのが人間だヨ」とつぶやき、ポケットに手をつっこむと、鼻歌交じりに階段を下りていく。

 さて、どれだけ経ったか……。

「まるで井戸みたいだ。それにひどく寒いや」

 ようやく階段が終わった。壁に洋燈(ようとう)が瞬き、障子の扉を照らしていた。

 檜(ひのき)の表札があり、毛筆で大きく、

 ――〈鳳凰(ほうおう)機関〉

 と書かれている。

 芳子が「鳳凰って……?」と首をひねる。

 人差し指を舐(な)めて障子にぷすっと穴を開ける。片目をつぶり、覗(のぞ)く。

 薄暗い和室が見えた。ぼんぼりの灯(あか)りに、壁から下がる二つの遺影が照らされている。

 一人はまだ三十代と見える着物姿の女。ぱっちりした目に丸っこい鼻、気の強そうな顔つき……。間久部麗奈とそっくりだった。

「さては麗奈サンのお母上かな。ヒロシマ出身で千里眼だったと昨夜聞いたがな」

 穴を覗く角度を変え、隣の遺影も見てみる。

 こちらは五十代らしき威風堂々とした男性だった。日本の軍服を着ている。

 芳子がはっと息を呑(の)み、

「海軍の山本五十六閣下じゃない…

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