写真・図版

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 ルイの交渉で、一同は古いジャンク船に乗りこんだ。

 船底は汚れ、なんともいえない臭いがした。百人以上詰めこんだところで、船長が「オーイもういっぱいだ! 重慶からまた戻ってくる。いや本当だ! 先月から休みなしに往復しとる!」と叫んだ。

 大声で嘆く難民たちを港に残し、ジャンク船は揚子江を南西に進みだした。

 川上へユラユラ上っていく。

 緑郎が一同を集め、小声で、

「ここから先は中国国民党との戦闘地域だ。くれぐれもぬかるなよ」

 河岸を振り返りながら、マリアが「是了(ズーラ)……」とうなずく。芳子もつられて河岸に目をやった。

 船に乗れなかった難民の一部が、揚子江沿いの道無き道を、よろめいて歩き始めていた。彼らの背後では工場が火災を起こし、黒煙を上げていた。雪のそぼふる朝の空かなたを、豆粒のような戦闘機が飛びすぎる。

 反対側の河岸には日本兵の群れがいた。戦車や野砲や軍馬も小さく見える。と、戦闘開始の喇叭(ラッパ)が高らかに鳴った。敵陣らしき方角に向かい、ドンッドンッと砲弾を撃ち始める。機関銃の音もパラパラと響く。

 真ん中の揚子江には、日本海軍の砲艦、国旗を掲げた欧米の民間船、難民を乗せた小さなジャンク船が浮かんでいた。波しぶきとともにすれちがう。

 日本海軍の水上偵察機が、轟音(ごうおん)を立てて川面すれすれを飛んできた。敵兵の隠れる丘に爆弾を落とし、去っていく。爆撃の余波が河岸の難民たちを襲い、悲鳴が響いた。ジャンク船の人々も心配して叫び声を上げ、振り返る。そこに水上偵察機が戻ってきて、さらなる爆撃が続いた。

 ジャンク船はどんどん川を上っていく。

 船上で難民たちが「日本鬼子(リーペンコイツー)!」と叫びだす。ルイと芳子も一緒に叫び声を上げる。

 正人がガタガタ震えだした。マ…

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