[PR]

【アピタル+】患者を生きる・食べる「がんと口内炎」

 抗がん剤治療に副作用はつきものです。脱毛や吐き気などの副作用に比べると後回しにされがちですが、口の中も口内炎など様々なトラブルが起こります。痛みや食事が取れない苦痛だけでなく、体力が低下して治療に影響してしまう可能性があります。重要なのは口内のケアです。がん治療に伴う口腔(こうくう)ケアについて、静岡県立静岡がんセンターの百合草(ゆりくさ)健圭志(たかし)・歯科口腔外科部長(42)に聞きました。

――がんの治療で口の中にトラブルが起こる人は多いのでしょうか。

 インターネットを使った患者へのアンケートでは4人に1人が、抗がん剤治療でつらかった副作用として「口内炎」を挙げています。特に「細胞障害性」と呼ばれるタイプの抗がん剤では、40%に口内炎が起こり、その半分は食べることができないほどのひどいものです。このタイプの抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃する薬で、新陳代謝が活発で細菌の数が多い口の中や腸で副作用が起こりやすいです。また口の中はものを食べたり舌に歯が当たったりするといった刺激によって、炎症が起こりやすい場所でもあります。

――抗がん剤治療に伴う口の中の副作用には、どんなものがありますか。

 粘膜を作る細胞がダメージを受けることで起こる口内炎などの「口腔粘膜炎」、唾液(だえき)腺細胞のダメージで唾液(だえき)の量が減ることで起こる口腔乾燥などがあります。乾燥していると汚れやすくなりますし、味覚障害につながったり、口内炎が治りにくくなったりします。また、抗がん剤治療による免疫力の低下で、カンジダやヘルペスなどの真菌感染症による口内炎が発生したり、歯周病が悪化して歯肉が腫れてしまったりすることもあります。

写真・図版

 副作用による口内炎は、ビタミン不足や疲れによるものとは違って、口の中の広い範囲にただれや腫れが起こり、強い痛みを伴います。傷ができると、細菌が体内に入り込みやすくなり、免疫力が低下していると敗血症など重篤な状態にもなりかねません。

――口の中の状態は体全体に影響するんですね。

 口内炎があると、口腔細菌や歯周病菌が侵入して全身の感染症になるリスクは4倍高まるという報告もあります。痛みで食べられなくなれば、体力が低下し、抗がん剤の量を減らしたり、治療薬の変更を余儀なくされたりするなど予定通りがん治療が行えなくなってしまうこともあります。

――歯科ではどんな治療をするのでしょうか。

 感染を予防するために清潔を保つことと、痛みのコントロールが基本です。清潔にするには日頃の歯磨きが重要です。歯科では、正しい歯磨きの方法を指導しています。口の中に炎症が起こってしまうと、刺激に弱い状態なので、しみない歯磨き粉や、ヘッドが小さく毛が柔らかい歯ブラシを使い、丁寧に磨きます。特に、食べられない時期は、ヘッドの部分がスポンジになったスポンジブラシで口の内側を掃除することも効果的です。倦怠(けんたい)感や吐き気などでなかなか歯磨きができないときもありますが、そんな場合はうがいだけでもいいです。皆さん、食べられていないから歯が汚れないと思いがちですが、食べ物と歯の摩擦で細菌が落ちるので、食べていない時間のほうが口の中の細菌の量は多くなります。飲食できないときにも歯磨きやうがいを続けてください。

 痛みへの対処は、痛み止めののみ薬や、痛みが強い場合は医療用麻薬を使う場合もあります。局所の痛みをコントロールするには、痛み止め入りのうがい薬を使ったり、軟膏(なんこう)を塗ったり、口の中に膜を作る薬などを使ったりします。

――がん治療前の歯科受診も勧められているんですね。

 あらかじめ口の中をきれいにしておくことで汚れにくい状態になります。歯石があると汚れがたまりやすくなります。がん治療前にかかりつけの歯科医を受診し、クリーニングや簡単な虫歯治療、ブラッシングの指導を受けておくと、きれいな状態を保ちやすくなります。前もって対処しておけば、副作用の軽減にもつながります。

――こうしたがん治療に伴う歯科の治療には、公的医療保険が使えますか。

 こうした口腔ケアは「がん口腔支持療法」と呼ばれ、がん治療を確実に遂行する為のサポートになり、がん治療に伴う副作用対策としての重要性が理解されるようになってきました。2012年から「周術期等口腔機能管理」として、公的医療保険が適用になっています。がん治療の専門病院でも歯科が増えていますし、全国の歯科医院で、がん治療中の患者への口のケアや歯科治療についての知識を習得している歯科医師がいる「がん診療連携登録歯科医」も増えてきました。国立がん研究センターのがん情報サービスのサイトでも公表されていますし、各都道府県の歯科医師会のホームページに掲載しているところもあります。

――歯磨きなどのセルフケアはがん治療にとって重要なんですね。

 副作用の症状が軽くなるように患者さん自身でできることです。吐き気や倦怠感などの副作用が出ている時期は生活のリズムが変化すると思いますが、ちょっと口に気を遣うだけでもトラブルを減らせます。かかりつけの歯科医院などで、ぜひ一度ブラッシングの方法を習って、セルフケアを続けてください。

 

 ◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・食べる>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・月舘彩子)