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 夜通し働いた後は冷えたビールを胃に流し込み、厚切り肉をほお張りたい。明日への活力につながるニンニクもあれば最高だ。そんな労働者の願いをかなえてきた店が三重県四日市市にある。国内有数の石油化学コンビナート群を誇る街で営業すること63年。豚肉のステーキ「とんてき」を頼む人が引きも切らない「あさひ食堂」だ。

 近鉄四日市駅から歩いて数分。午前11時になると店が開く。すると、ものの5分ほどで全48席の店内は客で埋まる。この光景が、あさひ食堂の日常だ。

 客はまず、ビールの大瓶(税込み550円)を頼む。そしてショーケースから、好みの一皿を取って食べる。「ねぎ焼き」は200円、「肉じゃが」は400円。のれんに書かれた「はやい やすい うまい」という言葉そのままだ。メニューは130種類ほど。酒が進むと会話も弾む。昼間なのに、店は夜の居酒屋のようなにぎわいに包まれる。20年来の常連客、柴田正章さん(57)は「毎日バスで通っている。みんなで和気あいあいと飲めるのがいい」。

 四日市にはB級グルメの「とんてき」がある。「お金をかけずに満腹になってほしい」。そんな労働者への思いから戦後まもなく生まれた。あさひ食堂の「肩ロースとんてき」は、250グラムの豚肉にニンニクの利いたソースを絡める。1100円。酒で蒸すように焼いてから味付けする。だから肉厚でも軟らかい。皿には山盛りの千切りキャベツ。そして、ニンニクが幾つもトッピングされる。

 店ができたのは1956(昭和31)年のことだった。当時は午前6時から午後11時まで営業し、四日市港の労働者が日参した。高度経済成長期には、夜勤明けの労働者が早朝から来るように。最盛期は平日に800人、休日になると1500人も訪れたという。オーナーの村田里子さん(75)は「朝飯を食べた日雇い労働者が夜も飲みに来た。私たちも休憩時間はなし。25人くらいのスタッフが2交代で働いた」。

 その後、四日市港で働く人が減ると、早朝から来る客もまばらになった。開店時間は徐々に遅くなり、いまは近くの会社勤めの客が中心だ。

 昨春から、村田彰吾さん(27)が料理長を務める。里子さんの孫娘の夫で、調理師学校で学び、懐石料理店でも修行した。高齢で閉店を考えていた里子さんは「ほっとしたね」。彰吾さんは「新メニューも出しているけど、店を変えたいとは思っていない。四日市の街中で、昔ながらの雰囲気を残していきたい」と話している。

アクセス・営業時間

 三重県四日市市諏訪栄町6の15 旭ビル1階(059・352・7752)。午前11時~午後9時。毎週火曜と毎月第3月曜は休み。(初見翔)