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 今年4月に、アメリカ・カリフォルニア州で開催されていた「がん看護学会」(ONS)の学術集会へ参加をしてきました。前回は、日本にはない、薬の処方などできる看護師制度が米国にあることについてお話をしましたが、今回は学術集会での発表内容に光を当てて、興味深かった内容についてご紹介します。

セッションの数の多さ、多様さ

 今年のONS(Oncology Nursing Society)の学術集会の参加者数は約3千900人。ONSの会員数は約3万9千人ですから、1割の人が参加したことになります。学術集会のセッション数は208本、ポスターは545本、セッションは毎日午前6時から午後8時までびっしりつまっています。

 会期中にカリフォルニアの青空を見ることができたのは、会場間の移動で外へ出たときだけでした。同じ時間枠に3~4本ほどセッションがあるため、興味のあるセッションが重なることもあります。そのため、聞き逃しがないよう、事前にプログラムをチェックし、開始時間にあわせて部屋を移動したり、間に合わないときはオンライン上で聴講したりと、会期中はとても忙しく時間を過ごすことになりました。

 取り上げている内容は幅広く、多様なことが特徴です。全体のプログラムは、功労賞受賞者などによる特別講演や教育講演、看護師のキャリア形成に関する内容、放射線治療や臨床試験、臨床現場での好事例など九つのカテゴリーに分類されています。また、各セッションの内容は、予防・検診から治療と副作用管理、臨床試験、サバイバーシップ、緩和ケアやチーム医療、がんの救急や骨髄移植に関することなど15の領域に分かれています。

セルフケアやキャリア形成に関するセッション

 「面白いなぁ」と思ったのが、看護師のメンタルに関するセルフケアを学ぶセッションや、看護師のキャリア形成に関するセッションが多く盛り込まれていることでした。

 前者は理論だけではなく、マインドフルネスやヨガなどを体験するセッションがありました。後者には、リーダーシップ論や人事マネジメント、チームビルディング(チーム医療をどうやってつくるか)に関するセッションがありました。これが、どちらも大変実践的な内容でした。

 例えば、暴力をふるう患者への対応を考えるセッションでは、言葉だけの対応ではなく、侵入してきたテロリストなどの手がなかなか届かないように看護ステーションの机の高さや奥行きの設計を工夫するなど、銃社会アメリカならではの対応もありました。臨床現場での好事例共有のセッションでは、実施したことに対するアウトカム評価が数字などを使ってしっかり検証されており、「やって終わり」ではありません。まるで、病院で実施できることのレシピ集のようになっていました。

家族の意思決定を支える

 印象に残ったセッションに、「病児の親への意思決定支援」があります。

 このセッションでは、「親が子どもに病気をどう告げるかをどうやって支援するか」という方法論ではなく、親と子のそれぞれをひとりの人格として位置づけることの大切さや、「家族」という存在や役割、その力を再定義していくことの大切さを再考させるセッションでした。

 演者からは、「difinition」という言葉を、参加者に対して繰り返し問いかけていました。単語の翻訳では、定義すると出ますが、セッションでは、自分の中でのがん経験の位置づけといった、アイデンティティーという観念で使われていました。

 「看護師は、家族が自分たちの答えを導き出すことを支持し、それを言葉や態度で病児に表明していくことを支援すること」というメッセージは大変心に響きました。

 親という存在、子という存在は、何歳になっても本質的な関係は変わりません。少子高齢社会の日本においても、「家族」を考えていくことは大変重要な振り返りです。こんな素敵なセッションに出会えるとは思いもしませんでした。

 また。例えば白血病の治療方法である「CAR-T細胞療法」など最新の治療に関するセッションも多くありました。そこでは、治療の仕組みや流れ、どのタイミングでどんな症状がでて、どんな対応が看護師に求められるのかが詳細に報告されていました。参加者からも、自分の対応や直面した事例が報告され、登壇者や参加者同士の意見交換も積極的です。いずれの内容にも患者教育の必要性が語られていましたが、日本で、こうした最新治療に関する効果や副作用を考える「患者教育」をどう展開するのかについて考えさせられました。

 セッションの進め方も、座長が「あなたの施設はどう?」との発言や投票をしてみたり、「みなさんの施設も同じ対応ですか?」と参加者の認識を確認したりと、参加者を巻き込んだ相互理解を促していることも好印象でした。もちろん、黙って座っている人はいませんから、ベテラン、若手に関係なく、質問や意見もたくさん出ます。「考え、学び、実践する」というアメリカの教育方法が生かされたとても活発な内容でした。

 次回の学術集会は来年4月30日から5月3日までテキサス州サンアントニオで開催されます。「日本の看護師は機会があればぜひ参加してみてほしい」。そんな気持ちを自然に抱かせた学術集会でした。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。