あの日、息子は消えた 今月も刻まれる「5870円」
上原佳久
空は晴れわたっていた。
専門学校に通う29歳の長男は、リュックを背負って福岡市の家を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
母親(63)が背中を見送った。
2016年9月、いつも通りの朝。後になってみれば、息子の声は少し疲れていた。
気の優しい子だった。友だちづきあいが苦手で、中学2年で一時不登校になった。母はそのころ、夫と別居。母子2人、狭いアパートで暮らした。
息子は大学を出て、夢だったアニメの制作会社に入ったが、長続きしなかった。見かねて、資格を取れる医療系の専門学校を勧めた。アパートの家賃を学費に回すため、夫の実家に頭を下げて同居させてもらった。息子は「お母さんがもたないよ」と、肩身のせまさを気にかけてくれた。
あの日、息子は夕食の時間を過ぎても帰ってこなかった。
午後10時になってスマホを…
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