万引きはなぜ繰り返されてしまうのか。これまでに約140人の窃盗症(クレプトマニア)の患者を診断してきた藍里病院(徳島県上板町)の吉田精次副院長に診断や治療方法について聞いた。
――クレプトマニアの患者が増えたのはいつごろからですか。
「私の病院にはこの3年ぐらいで増えた。それまでは年に1人程度だったが、現在は約50人が通院している」
――なぜ増えたのでしょうか。
「症状が新しいのではなく、物を盗むことが病気という認識が本人や周囲の人にこれまでなかった。この病気を持つ元マラソン日本代表選手が逮捕され、報道で取り上げられたことなどで認知され始めた。弁護士も病気だと認識し、病院に紹介するようになった」
――診断基準は。
「日本で使われている診断基準は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類と米国精神医学会の診断手引。しかし、この病気を専門に見ている医者が非常に少ないため、研究はまだ少ない」
「例えば診断基準では、盗みに合理的な動機があるかどうかが問われるが、具体的にどのような場合が合理的な動機にあたるのかは書かれていない」
――定義があいまいな場合、どう判断しますか。
「その盗みが経済的に得をするための行為かどうかを判断する。盗みは普通、利得が目的。ただ、難しいのは盗みをするときに『こんなものいらない』と考えているクレプトマニア患者は少ないことだ。何かの理由はある。ただ、その理由は『あったらいいな、食べたいな』とかその程度。その場合、精神医学的には合理的な動機とは判断しない」
――患者の特徴は。
「年齢は10~80代まで幅広いが、性別は女性が圧倒的に多い。食料品を買いに行く機会が多いことや、ストレス解消の手段としてたくさん食べるなど、商品との親密さがあるのではないかと考えている。逆に、ギャンブル依存症は男性の比率が高い」
――摂食障害を併せ持つ人もいます。
「摂食障害を持つクレプトマニア患者は家にいる時から何を盗もうかと考えている人が多い。過食の衝動でとにかく食べて吐きたいと考えている。それには食べ物がたくさん必要だが、まともに買うと月に約30万円もかかるといわれている。万引きして食べることを覚えると、急に支払うことがもったいなくなり、感覚がおかしくなる。他のクレプトマニア患者と違い、スーパーでカートが満杯になるまで入れるなど、盗む量が圧倒的に多いことが特徴だ」
――クレプトマニアを患う理…