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 途方もない富を生み出し続けるアマゾンの新本社が、わが町にやってくる――。全世界の都市がうらやんだ空前絶後のチャンスを、ニューヨーカーたちはみすみす捨て去った。巨大IT企業を追い出した心理と論理とは。アマゾンがもともと本社を置くシアトルと、新本社をつくるはずだったニューヨーク・クイーンズを歩きながら考えた。

 ぞっとするような事故が、シアトルのど真ん中で起きた。4月27日、ビルの屋上にあった建設用大型クレーンが倒れて地上の道路に落下し、たまたま通りかかった人や車を直撃。車に乗っていた地元大学の1年生で看護を学ぶサラ・ウォンさんら、4人が命を失ったのだ。

 ニュースを聞いて思い出したのが、その1カ月ほど前、高さ184メートルのタワー「スペース・ニードル」から望んだシアトルの街のパノラマだった。アジアの新興国を思わせる建設ラッシュで、10本以上の大型クレーンが視界に入った。当時の写真を確認したら、事故で倒れたとみられる黄色いクレーンも映っていた。街を歩いても工事現場ばかり。クレーンの下を通るとき、よもや倒れてはこまいと思いつつ、わずかながら緊張が高まったのを覚えている。

 クレーン事故があったのはグーグルのビルだったが、これほどの開発ラッシュをシアトルにもたらしたのは、紛れもなくアマゾンの急成長である。

 アメリカのネット小売市場を制覇しつつあるだけでない。動画・音楽配信にクラウドサービス、スマートスピーカー。手がけるビジネスはどれも既存のプレーヤーをなぎ倒す勢いで、日本人観光客にも人気の高級オーガニックスーパー「ホールフーズ」まで買収してしまった。株価はこの10年間で25倍に膨らみ、大株主でもあるジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)を「近代史上で最も裕福な個人」(米メディア)に押し上げた。

 その磁力に引き寄せられるように、ほかのIT企業やスタートアップも拠点を置く。チャンスを求めて全米からテック人材が押し寄せ、知的な交流の深まりがまた新たなビジネスを生み出す。いまやシリコンバレーに次ぐイノベーション都市だ。シアトルを抱えるワシントン州は昨年の実質経済成長率が5・7%と全米でぶっちぎりのトップだった。全米平均(2・9%)よりも中国(6・6%)に近い驚異的な数字である。

「タイニーハウス」点在

 街の真ん中で、配車サービス「ウーバー」のベテラン運転手に、どれがアマゾンのビルなのかを尋ねた。「えーっと、正面と右と左の建物、そして、後ろのもそうだね。要するに、今僕らの視界に入っているビルは、ぜんぶアマゾンなんだよ」。中心街のオフィス面積の2割をアマゾン1社が占めているという。シアトル都市圏にはスターバックスやマイクロソフト、コストコ、ボーイングといった巨大企業も本社や拠点を構えるが、アマゾンの存在感にはとうてい及ばない。

 光が強いほど、その影も濃さを増す。発展から取り残され、住む家をなくしてしまった人の急増だ。人口70万ほどのシアトルで、ホームレスはすでに1万2千人を超え、全米でもワースト3位につけたとの調査がある。

 アマゾンのビルが立ち並ぶ一帯から、車で10分ほど内陸へ。街路樹の整ったきれいな住宅街に、簡素な木製の塀でぐるりと覆われた一角がある。敷地内には、驚くほど小さな小屋が30戸あまり。ホームレスに住まいを提供する「タイニーハウス」だ。

 タイニーは「ちっぽけな」といった意味で、その名の通り一戸の広さは10平方メートルほどしかない。室内はベッドを置けばもういっぱい。浴室やトイレ、食堂は共用だ。一戸一戸の壁面に描かれたポップな絵が、少しだけ悲壮感を減じている。

 管理人のジェイソン・ボーガンさんによると、ここには43人の大人と11人の子供が住んでいる。大半はここから仕事や学校に通う。平日午後に訪れたせいか、人影はあまりなかった。ただ、「去年の秋にオープンして以来、空室が出たことは一度もありません」。敷地内でアルコールやドラッグは厳禁。自立を助けるために、履歴書や役所に出す書類の書き方をアドバイスする「ペーパーワークの日」も毎週木曜日にある。運営資金は寄付などで賄っている。

 タイニーハウスを集めたこうした「村」は、シアトル市内外に点在している。ホームレスの急増に数年前、市当局やNPOなどが苦肉の策として生み出したものだ。テントより丈夫で雨風をしのぐのには十分なのに、1戸わずか2500ドル(約28万円)で建てられ、建築許可などの手続きも要らない。そんな手軽さから一気に広がったという。

■ホームレス対策に「…

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