香取啓介
拡大する実験台になった女性奴隷アナーチャをモデルにした像の前で話すミシェル・ブロウダーさん=2019年5月、アラバマ州モンゴメリー、香取啓介撮影
米ニューヨーク・マンハッタンの北東イーストハーレムに面したセントラルパークに、空っぽの台座がぽつんとたたずむ。昨年4月、騒然とする中、台座に立っていたブロンズ像は、ロープがかけられ、撤去された。
ジェームズ・マリオン・シムズ(1813-83)。南部サウスカロライナ州生まれの医師で、「現代産婦人科の父」と呼ばれる。
当時の女性は、低年齢や栄養不足が原因で、出産で膣(ちつ)に穴が開く「膣瘻(ちつろう)」(フィスチュラ)という症状に悩まされていた。便や尿が漏れるほか、感染症にもかかりやすくなり、働くこともままならない。
女性の尊厳や生活の質に関わる症状で、アフリカなど途上国では現在でも数百万人の女性が苦しんでいるが、当時は治療法がなかった。シムズは器具を開発し、フィスチュラの手術を確立した。
功績を手に、ニューヨークに移ったシムズは、最初の婦人病院を開設し、米国医師会長を務めた。名声は欧州にも広がり、フランス皇帝ナポレオン三世の妃ウジェニーを診察したこともある。片足を引きつけて横向きに寝る姿勢は「シムズの体位(姿勢)」と呼ばれ、浣腸(かんちょう)や直腸検査時に今も使われている。
セントラルパークのブロンズ像は、1934年、彼がメンバーだったニューヨーク医学アカデミーの5番街を挟んだ向かいに立てられた。
拡大するセントラルパークに設置されていた「現代産婦人科学の父」ジェームズ・マリオン・シムズのブロンズ像=2017年9月、ニューヨーク、香取啓介撮影
ところが彼の功績には、像では語られない負の面があった。
治療法の実験に、奴隷として自…
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朝日新聞国際報道部