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 華人のお年寄りたち数十人が集まってマージャンをしている。集まってきた記者やカメラマンら十数人は、私も含めてアジア系の顔立ちばかりだ。

 オーストラリア第2の都市メルボルン東部にある街ボックスヒル。5月8日朝、10日後に迫った総選挙を前に、最大野党・労働党の候補者が記者発表をすると聞いてやってきた場所は、地味な公民館だった。

 ほどなく、同党候補のジェニファー・ヤンさん(42)が党幹部らと入ってきて、お年寄りたちの前で発表を始めた――。

中国語メディアが追う選挙戦

 4人に1人以上が外国生まれの移民社会なのに、白人以外は出世に苦しむ。今年1月、豪州でアジア系の人たちを阻む「竹の天井」を、この欄に書いた。ビジネスや学会での話を中心に紹介したが、竹の天井は、実は政界の方が厚いかもしれないと思っていた。

 豪シンクタンクのパーキャピタのまとめでは、改選前の上下院計226人中212人(94%)を欧州系が占めた。アボリジナルピープル(先住民)を除く非欧州系はわずか9人(4%)。人口比では、年々増えて18%を占めているのにだ。アジア系議員で見れば4人で、2%に満たなかった。

 そんな「白人支配」の政治を探ってみなければと考えていたとき、ボックスヒルがある下院チズム選挙区が注目を集めた。労働党と与党・保守連合(自由党、国民党)が今回、ともに華人の女性を擁立したのだ。

 「政権を握ったら、この地区に華人向け高齢者施設をつくります」。党幹部の英語を、台湾出身のヤンさんが中国語に訳していく。発表後、公民館のホールにも移動して、体操をしていたお年寄りたちに中国語で話しながら握手して回る。

 ヤンさんは、メルボルン都市圏の地元自治体の市議や市長を務めた。2016年の上院選にも出て、落選。2回目の国政挑戦だ。「アジア系の女性として、私は『竹の天井』にも(女性の出世を阻む)『ガラスの天井』にも直面している。天井を破るにはみんなで声を合わせないといけない。私は似た境遇にある人たちに力を与えられる」

 発表の報道資料は、英語と中国語の両方が用意された。報道陣の大半は、地元の中国語メディアの記者やカメラマンたちだった。そのうちの一つ、大洋日報の禹志超・編集長は「週刊紙も合わせると、メルボルンで中国語紙は8紙も出ている」と言った。中国語のネットメディアの記者も取材に来ている。

 キャンペーンも、報道も、中国語。この選挙区では、華人が人口の2割を占めるまでに増えた。商店や飲食店の看板が漢字だらけのボックスヒルの街を歩いていると、そんな選挙戦が、当然のように思えてきた。

アジア系はクール?

 ヤンさんのライバルは、香港出身で自由党のグラディス・リウさん(55)だ。期日前投票所の前で「最後のお願い」をしていた。

 華人ばかりの公民館とは違い、投票に来る姿は、白人もいれば、アジア系もいる。入り口の前で「私はグラディス。自由党の候補者です。よろしく」と、相手が誰でも自分からどんどん近づいていく。

 この地域での飲食店の経営をへて、言語聴覚士としても開業した経験を持つ。3年前の前回総選挙で、同党のギリシャ系候補を応援し、華人有権者に向けた中国語のキャンペーンをソーシャルメディア上で展開。わずかな差での勝利をもたらした立役者と言われた。今回、別の選挙区に移った現職に代わり、候補者に選ばれた。

 「私は選挙区の党員代表170人に選ばれた。華人だけでなく、みんなの代表になれる」

 投票を終えた白人の有権者に「華人対決」の感想を聞いてみる。「このあたりは本当にアジア系が多いから、全く驚かない。労働党に勝って欲しいけど、自由党の候補もアジア系と知って、クール(格好いい)だと思った」。50代という女性、ペニーさんが答えた。

 大接戦になった選挙戦で、わずかな差でグラディスさんに「当確」が出たのは、選挙から4日後たってから。豪州で初の華人の女性下院議員が誕生する。

「天井を破った男」の挑戦

 私にはもう一つ、注目していた選挙区があった。シドニー中心部から西に車で2時間ほど。世界遺産のブルーマウンテンズに近いマッコリー選挙区。ここに「竹の天井を破った男」が立候補していたからだ。

 5月5日午前、選挙区内の州立…

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