[PR]

【アピタル+】患者を生きる・眠る「耳鳴り」(治療法)

 耳鳴りは国内では300万人以上が悩んでいるともいわれ、不眠になったり、医師や家族から「気の持ちようだ」などと言われてさらに悩んでしまったりする人もいます。しかし耳鳴りの多くには「難聴」が隠れているといいます。「補聴器療法で難聴の人の9割の耳鳴り症状が改善した」と話す済生会宇都宮病院の新田清一さんに、耳鳴りとの向き合い方や治療法について聞きました。

――人間の「聞く」仕組みはどうなっているのでしょうか。

 音を認識しているのは、実は「脳」なんです。

 外から入ってきた音は、突き当たりの鼓膜を震わせます。耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる骨がその振動を増幅し、カタツムリのようなかたちの蝸牛(かぎゅう)に伝わります。この蝸牛の神経細胞がふるえることで、音を電気信号に変えて、聴神経をたどって脳に送っています。

 例えば高い音が聞き取りにくくなる「加齢性難聴」では、この蝸牛の高音の部分の変換がうまくいかず、脳に信号が届きにくくなっている状態です。

――難聴と耳鳴りは関係するのですか。

 私の外来には、耳鳴りで悩む患者さんがたくさんいらっしゃいますが、たいていの方は「耳鳴りがうるさいから、音が聞こえにくい」とか、耳鳴りと難聴は別物だと考えています。実はほとんどの方が「聞こえ」にも問題があるんです。聞こえをよくすれば、耳鳴りが改善することがあります。

――そもそもどうして耳鳴りは起こるのですか。

 たとえば加齢性難聴の患者さんでは、だんだんと高い音が聞きづらくなりますが、脳は「これまで聞こえていたはずの高い音を聞き取ろう」として、減ってしまった電気信号をもとに戻そうと過度に興奮します。

 この「脳が頑張っている音」が耳鳴りです。ですので、高い音が聞き取りづらい人は「キーーーン」という高い耳鳴りを感じています。

 多くの人は20代以降で聴力低下が始まります。耳鳴りは少なからず誰でもあるものです。

写真・図版

注意の脳、苦痛の脳

――でも、悩んでいる人とそうでない人がいるのはなぜですか。

 「注意の脳」と「苦痛の脳」の働きが関わっています。

 いったん耳鳴りが聞こえると、初めて聞いた音に「注意の脳」が注意を向けさせます。耳鳴りが長く続けば、注意の脳が「危険な音ではない」と判断するので、耳鳴りもだんだんと落ち着いていきます。

 ただ、耳鳴りが悪化してしまう人は、さらに「苦痛を感じる脳」が働いてしまいます。

 ストレスを感じたり、「なぜ耳鳴りがするのか」「このまま耳が聞こえなくなるかも」と不安になったりする「苦痛を感じる脳」が働くと、注意の脳が「今日の耳鳴りは大きくないか」「まだ聞こえるか」とますます働きます。さらに不眠や緊張といった自律神経の乱れも重なると、「苦痛のネットワーク」による悪循環が起きてしまいます。

――耳鳴りの治療はどんなことをしますか。

 まずは「耳鳴りの支障度に関する質問表」で、日常生活にどんな支障が出ているか問診し、聴力検査をします。

 先ほど伝えた「耳鳴りの仕組み」を正しく理解するだけで、不安がなくなって耳鳴りが改善する人もいます。「脳が頑張っているんだな」「耳鳴りは放っておいてもいいんだ」と思考を切り替えると「注意の脳」が休まるわけです。

 日常生活に支障のないレベルに落ち着けば、その後の治療はしません。

重症の場合は

――どうしても気になるという重症の場合はどうしますか。

 うつといった精神的な病気が合併している場合は、精神科とも連携して治療します。

 多くの場合は「難聴」が隠れているので、その難聴の原因を治療します。たとえば片方の耳が突然聞こえなくなる「突発性難聴」は発症後すぐの治療が大切です。めまいなどがあるメニエール病では利尿剤といった薬物治療や生活改善を指導します。

 ただ、加齢性難聴は難聴の根本的な治療が難しいです。そこで日常生活に困っている方には「補聴器療法」をおこないます。

――補聴器療法とは。

 補聴器で足りていない音を増やすことで、減っていた電気信号を補い、脳の興奮を抑えます。

 大切なのは常に補聴器をつけることと、その人の聞こえに応じて補聴器をこまめに調整することです。

 最初は、これまで聞こえなかった音が突然入ってきてうるさく感じますが、ここで我慢してつけ続けることが大切です。週に1回、補聴器の音域や出力などを細かく調整して、新しい音の環境に脳を慣れさせていきます。

 3カ月ほどつけ続ければ、脳が音のある状態に慣れ、聞こえも改善します。これまで聞こえなかった音域の音が拾えるようになるので、脳は頑張る必要がなくなり、自然と耳鳴りが改善するのです。

――補聴器療法はどこで行えますか。

 残念ながら「どこの病院でも受けられる」というのは難しいのが現状です。

 「補聴器を買ったけど役に立たなかった」という経験のある方もいるかもしれません。日本の補聴器使用者の満足度は38%で、フランスの82%、イギリスの74%などに比べ世界的にもとても低いです(2018年ジャパントラック調べ)。それは、聴力に合わせた調整やメンテナンスをしていないからです。

 本来、補聴器は医療機器です。当院では患者の聞き取り能力に合わせて、専門の言語聴覚士が調整しています。それでも最初は慣れるのが大変なので、医療者側も患者さんを励ましながら取り組んでいます。補聴器に慣れたあとも、年数回は調整にきてもらいます。

 医療者が関わっていないめがね屋や、インターネットで買うのはやめましょう。また、高額であれば有効というわけではありませんが、2万~3万円といった安価なものは、補聴器ではない「集音器」の可能性があります。集音器は医療機器ではなく、耳を痛めるリスクもあります。

――日常生活で耳鳴りを改善させる方法はありますか。

 「今日の耳鳴りは大きいかどうか」と確認したり、記録をつけたりするのは、「注意の脳」を働かせないためにもやめましょう。

 自宅などの静かな環境では、波や川のせせらぎといった自然の音のCDを小さめの音で流しておくのもおすすめです。

 「耳鳴りを完全になくすんだ」といった完璧主義の方は、耳鳴りが悪化しやすいです。「気にならなければいい」ぐらいまで改善すればいいと気楽に考えましょう。

     ◇

 耳鳴りの治療に役立ててほしいと、新田さんは5月に「難聴・耳鳴りの9割はよくなる 脳を鍛えて聞こえをよくする『補聴器リハビリ』」(マキノ出版)を出版した。慶応大の小川郁教授が監修し、補聴器療法が受けられる医療機関のリストも掲載している。

◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・眠る>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・水野梓)