突然我が子失うつらさ、語り続ける 池田小事件18年
学校に侵入した男に児童8人の命が奪われた大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)の殺傷事件から8日で18年。学校や通学路の子どもを狙った事件はその後も繰り返され、安全を守るための模索が続く。遺族は命の大切さを訴え、つらい体験を語り続けている。
教師目指す学生へ 母が語る思い
大阪教育大は付属池田小での事件を受け、再発防止策の一つに「適切な危機管理や危機対応を行える教員の養成」を掲げた。2008年から始めた「学校安全」の授業では、教員をめざす学生らが事件の教訓を学ぶほか、遺族の講演を聴き、池田小の校舎を見学する。
亡くなった山下玲奈さん(当時8)の母・和子さん(56)は、大学からの呼びかけに応じ、2010年から毎年登壇してきた。10年目を迎えた今年2月には、小学校の体育館に集まった約430人にこう語りかけた。
「突然子どもを失い、普通の生活がどれだけありがたいか、思い知らされました。朝起きておはようと言ってくれる。行ってきますと学校へ行く。ただいまと言って、学校での出来事を楽しそうに話してくれる。おやつを食べる。晩ごはんを食べる。一緒にお風呂に入っておやすみなさいと言ってくれる。そんな何げない毎日がどれだけいとおしいと思ったでしょう」
「事件を通じて学校安全と命の大切さを考える」をテーマに年1、2回の講演を重ね、これまでに山下さんの話を聴いた学生は5千人を超えた。
山下さんが話すのは、玲奈さんの思い出、そして事件の5年後に生まれた長男(13)との日々だ。長男は予定日より2カ月早く生まれ、母子ともに危険な状態だった。
「本当に危ないところで私も子どもも生きることができました。命の大切さを痛感しました。人間は生きているだけで意味があると思いました」(10年8月)
「一日の終わりには息子に『今日も一日ありがとう』と言って寝るようにしています。起きているときも寝ているときも(息子の)心臓が動いていることに感謝している毎日です」(12年8月)
「過去は振り返らない。先のことも考えない。今という時間を大切に過ごす。毎日毎日を感謝し、悔いなく過ごすことを息子に伝えたい。みなさんも感謝の気持ちをご両親や身近な人に伝えてほしい」(18年6月)
講演後には「涙が止まりませんでした」「(教員になったら)二度とこのようなことが起こらないよう伝えていきたい」などの感想文が届く。山下さんは「先生をめざす若い人たちに親の思いを話すことで、重い命を預かる自覚を持ってもらえたら」と話す。(森嶋俊晴)
川崎事件に衝撃 「加害者生まない社会を」
事件で長女の本郷優希さん(当時7)を失った父・紀宏さん(54)は2004年に講演活動を始め、今年で15年になる。命の大切さを伝え、命を守る行動につなげてほしいと願う。
講演では、会場に来た人たちの目を一人ひとり見ながら娘について語る。いつも笑顔で明るく、ピアノと新体操が得意。学校が大好きで将来は「先生になりたい」と言っていた。そして事件当日のこと、今を生きさせてやれないこと。気持ちを振り絞りながら話す。
資料は使わない。「事件の知識を伝えるためなら、私でなくていい。経験を伝えることで、安全への意識を変えてもらいたい」と考えるからだ。
講演は知人に勧められ、事件と向き合うために始めた。再び同じような事件が起きれば娘は悲しむ。二度と起こさない社会にするために娘の代わりに自分が伝えないと、と思った。
これまでに約140回の講演を重ねた。聴衆には高校生や大学生もいる。一番伝えたいことは「みなさんがどれだけ周りから大切にされ、愛されているか」。自分と同じように周りの人も大切にされていて、守らなければならない存在なんだ、と伝える。
だからこそ、登校中の小学生ら20人が殺傷された川崎市の事件にショックを受けた。「防ぎようがない事件と片付けてはならない。被害者はもちろん、加害者を生まない社会づくりが必要だ」と訴える。
講演では推敲(すいこう)を重ねた原稿と娘の写真を手元に置き、「ちゃんと伝えられているかな」と心の中で尋ねながら前を向く。「娘のために戦っている自分を意識しながら年を重ねてきた。ずっと同じ思いです」(柳谷政人)
■校内で襲われた池田小 通学…